そもそもの発端は業界関係者がこぢんまりと集まった、東京東部のとある夜の酒席。

 各地の読書会の話題が出るやいなや、

「東京でもあるといいよね」(←ヒトゴト)「うんうん、やってくれるといいなあ」(←ヒトゴト)「東京は広いからこっちは東支部ってことで」(←まだヒトゴト)「ビギナーの人たちも来やすい雰囲気でね」(←まだまだヒトゴト)「じゃあ課題はホームズとかかな」(←まだ野次馬)「『シャーロック』、ちょうどブームだし!」(←ただのミーハー)「バッチくんいいよね〜〜!」(←さらにミーハー)「顔がちょっとヘンじゃない?」(←もはや読書会関係なし)「あれがいいのよ!」(←……)「とにかく課題作は古典がいいよね、定番って感じので」(←やや理性的な誰か)「そうそう。あ、次は何飲む?」

 そんなまったりゆったりな流れでいつのまにやら決定していた第一回東東京読書会開催。4名の世話人たちはほぼ読書会初心者でしたが、リーダーS幹事長の指揮のもと、課題作も古典で定番中の定番、サー・アーサー・コナン・ドイルのホームズもの短編『ボヘミアの醜聞』『赤毛連盟』『まだらの紐』と決まり、サクサク準備を進めて、9月30日に開催決定。が、この日はあいにくの超大型台風が来襲。おのれ。いったんの中止を経て、10月27日にめでたくリベンジ開催の運びとなりました。

 さて当日。場所は清澄白河のレトロなカフェ。早めに集まった方たちは読書地図でお遊びタイムです。スタート地点に置かれた作品名はもちろん今回のお題三作。最初はおずおずと遠巻きにしていた方たちも、『ボヘミアの醜聞』が「男装の麗人」で『ベルサイユのばら』につながる頃には盛り上がって、積極的にいろいろ書きこんでくれました。そしてダニエル・デイ・ルイス主演映画つながりの原作タイトルが並ぶ頃にはもう、ダニエルくんのファン集会ですかコレという白熱ぶり。その熱気のまま本会へ突入とあいなりました。

20121027174431.jpg

 時間どおりに本会スタート。開会のあいさつ、ゲストの日暮雅通さんからのひと言、参加者自己紹介のあと、いよいよ本番、二つのグループに分かれてのディスカッションタイムです。(以下、ややネタバレ含みます)

 まずは課題作の中で好きな作品・好きなキャラクターを挙げてもらったところ、グループAは『まだらの紐』が多数。理由は「怪奇小説っぽい雰囲気がいい」「“まだらの紐が!”という台詞のインパクトや謎が面白い」など。なかには「国語の教科書に載っていた(!)思い出の作品」というご意見も。

 いっぽうグループBは『赤毛連盟』で、「ミステリーとして最後まで謎があって引っぱられる」、それからこれはグループAも同様でしたが「赤毛がわさわさいるシーンなどのユーモラスな味」が高得点源でした。

 好きなキャラクターはA・Bともに(当然というか)アイリーン・アドラーが一位。理由は「この時代の女性として自分の意志がちゃんとあるヒロイン像」「ホームズの裏をかいたところが痛快」というご意見多数。ただ「アイリーンの存在感は映像の影響が大きく、原作ではそこまでではないかも」という指摘もありました。

 そして意外というか、グループBでは「ホームズとワトスンのコンビが好き」という意見が多出。天才&普通人という組み合わせの妙がよかったようです。「ワトスン、いい人すぎ」「寝てるところへ、30分で駅まで来いって言われて行くところがすごい」「普通の人がいるから、天才は才能を発揮できるんですよね」「ホームズは天才だけど彼氏にはイヤ!」「一緒に暮らすなら絶対ワトスン」(ワトスン株急上昇!)

 逆にグループAでは「やっぱりホームズが好き」が多数。「変人のイメージがあったけどこの3篇ではわりと紳士」、ただし、「でもそばにいてほしくはない。友達くらいで」(笑)

 各作品について、疑問点の指摘も炸裂。『ボヘミア』については、話の整合性がない、と鋭いツッコミが入りました。「アイリーンがなぜ突然逃げたのかわからない」「状況は変わってないのに王様はどうして彼女を追いかけないのか」。続いて『赤毛』でも、「ホームズは質屋の店員(=ロンドン第二の悪党)の顔を知っているのに、相手はどうして有名なはずのホームズの顔を知らないのか」「たった二人で地下のトンネルを銀行まで掘れる?」。う、たしかに。ミステリー初心者という方も多いのに、皆さん鋭いです。そして「『ボヘミア』下宿の女主人がハドスン夫人ではなく、ターナー夫人になっているのはなぜ?」との指摘が。実はこれ、シャーロキアンのあいだでは有名な謎だそうです。むろん、この読書会で答えは出ませんでしたが、われこそはと思う方はどうぞサー・アーサーに挑戦して、推理してみてください!

 そしてお勉強にもなる東東京読書会(笑)。「『ボヘミア』でアイリーンが馬車を飛ばさせたときの半ソヴリンっていまの何円くらい?」との質問が。これには日暮さんが1ポンド=2〜2・5万と教えてくださり、1ソヴリン=1ポンドなので、キリよく1ポンド=2万円で換算すると、半ソヴリンは現在の1万円。「タクシーに“1万円あげるから早く!”って言えば、そりゃ飛ばしますね」と、皆さん納得。同じく、『まだらの紐』で、ロイロット博士が妻の遺産から受け取っている年金は千ポンド=約2千万円と判明。参加者さんたち、羨望のため息(笑)。そこから、犯行の動機である娘二人の持参金合計5百ポンドを引くと、残りは1千万円。皆さん、すかさず「1千万あればじゅうぶんでしょ!」……欲張るからばちが当たったんですよ、ロイロット博士。

 ディスカッション終了後は、9月に出席してくださるはずだった駒月雅子さんからのお土産の塩飴を皆でいただきながら、各グループの内容を簡単にまとめて発表。それからスペシャルお土産を配布。イラストレーターの宮崎裕子さんがすてきなブックカバーを作ってきてくださり、大好評でした。

20121105145441.jpg

 そしてアンケートを書いていただいたのち、最後は駒月さんのお土産第二弾、ディクスン・カーとマクロイの御訳書4冊をじゃんけんトーナメントで勝者に贈呈しました。

 その後は二次会の中華料理店へ。ここでもその盛り上がりっぷりといったら、皆さん初対面とは思えないほど! 本のことを語り合うって、こんなにも人と人との距離を縮めるものなのかと、いまさらながら本や物語の持つパワーに感動しての締めくくりとなった第一回読書会でございました。本当に楽しかったです、皆さん、ありがとうございました!!(世話人一同、最敬礼)

 なお、後日日暮さんから当時の貨幣について詳細な解説をいただきましたので、作品をより理解していただけるよう、ここに作品に関係する事項を要点のみ載せておきます。

*1ポンド=1ソヴリン=20シリング=現在の約2万4千円

*ホームズものによく出てくるギニー金貨は当時、おもに謝礼や賞金、公共団体への出金用に使われていた。1813年に鋳造終了。1817年には流通から回収されてソヴリン金貨にとって代わられた。

*ポンドは純粋に貨幣単位で、実際にもちいられる通貨はソヴリン(金貨)だった。

 以上、第一回読書会のまとめでした。ところで東東京読書会は記念すべき初回の特別割引対象に、課題の三作品にちなんで「親戚が王様(本人でも可)」「髪が赤毛」「インド在住歴あり」の条件に該当する方をお待ちしていたのですが、今回は該当者なしでした。ううむ、残念。ひそかに王様のお越しを期待していたんですが。で、次回の条件は……おっと、ネタバレするところだった、あぶないあぶない。

 とにもかくにも、無事に第一回を終了でき、参加者の皆様と駒月さん、日暮さん、シンジケートの方々にはひたすら感謝のひと言です。第二回の準備もすでに進行中ですので、詳細が決まった折りには、またシンジケートのサイトにて告示させていただきます。それでは皆様、また東京東部でお会いしましょう。

これまでの読書会ニュースはこちら