こんにちは。杉江松恋です。

 いつもありがとうございます。

「杉江松恋のガイブン酒場」は、ミステリー・プロパーの読者である杉江が、世界のさまざまな文学を読むことに挑戦してみたいと考えて始めたイベントです。その月以降に出る外国文学を早読みし一足先に内容をご紹介するという趣旨で、河出書房新社、新潮社、白水社、早川書房の各社にご協力いただいて開催をしております。明日に迫った第五回の情報を、本日は少しお伝えしたいと思います。

 今回は奇しくもユダヤ系作家の作品が2つ揃いました。原書の刊行順でご紹介しましょう。

 イーディス・パールマン『双眼鏡からの眺め』(早川書房)は2011年にPEN/マラマッド賞、2012年に全米批評家協会賞をそれぞれ受賞した短篇集です。34篇が入っていて、とてもお得ですよ!

 この作品集の中盤に配置されている「愛がすべてなら」は収録作の中でも長めのものの一つで、アメリカ・ロードアイランド州出身(パールマンと同じ)の女性ソーニャが第二次世界大戦下のロンドンにあるユダヤ系難民の受け入れ施設で働き始めることに端を発する物語です。戦時下のひとびとの暮らしを描いた短篇ですが、途中でドイツのV1爆弾が飛来し始め、ロンドンにも空襲の危機が訪れることになります。ソーニャも林檎を食べながらハイドパークのベンチに座っているときに、落下する爆弾を目撃します。そこからの1ページの描写の濃密なこと濃密なこと。パールマンは奇を衒った文章の作家ではありませんが、短い文章の中にたくさんの意味を盛り込み、1行ごとに読者の心象風景が変わるような書きぶりをしてきます。濃厚で、焦った読み方を嫌う文体です。だからこそ短篇向きで、一篇ごとに滋味があふれ出してくる。包まれるような暖かみがある。私の拙い文章ではこの作家の素晴らしさを語りつくすことは到底できませんが、当日は幸い、訳者の古屋美登里さんにお越しいただけます。古屋さんのお力を借りて、この魅力的な作品を紹介させてください。

 もう1冊のユダヤ系作家は『アンネ・フランクについて語るときに僕たちの語ること』(新潮クレストブック)の作者ネイサン・イングランダーです。彼は2000年にPEN/マラマッド賞を受賞。単行本の刊行は初めてですが、短篇は以前にも翻訳されたことがあります。

 表題作はレイモンド・カーヴァー『愛について語るときに我々の語ること』の本歌取り。あの作品をなぞっていくように見せかけつつ、中途からのツイストで読者を驚かせます。タイトルから終盤の展開を想像できる読者はまずいないでしょう。ラストの1ページ、暗闇の中に立ち尽くしているような気分にさせられるそのスリルたるや。大人の男女4人がただ語り合っているだけなのに、ぞわぞわとした興奮を味わわせてくれる作品です。ユダヤ系という出自、イディッシュ語を駆使して書くという本筋の部分は決してぶれないのですが、中にはものすごい変化球もあるのがこの短篇集のすごいところ。特に「覗き見ショー」のヘンテコさは驚嘆すべきものがあります。これもきっと、みなさんが思っているような話ではありませんので! その変さについてもお話したいと思います。先月の『不浄の血』といい、どうも今年はイディッシュ語作家の当たり年みたいですね。

 さて、3冊目は特別参加をしてくださった文藝春秋よりマックス・バリー『機械男』をご紹介します。タイトルからアレ? と思われた方も多いのでは。そう、意図的にアレに似せてますよね。そのとおりで解説からの孫引きを許していただくと「すごくギークなアイデアとアクションが満載の、スマートでシニカルな本を読みたいなら、『機械男』をチェックすべし」という雑誌「ワイアード」評がこの本のなんたるかをよく言い表しています。人とうまく意思疎通が図れず、素直に友達になることができない青年が主人公の物語です。運がいいのか悪いのか、彼は工学系で開発マニア。そのことからどんどん事態が拡大していくのがこの本のおもしろいところでしょう。以前に翻訳された『ジェニファー・ガバメント』と同様のディストピア的な世界観がある点にもご注目。SFに分類される小説なのでしょうが、そうですね、うーん純愛小説? これは女子のご意見も伺いたいところ。

 以上の3冊に加え、今回は作家特集をお送りしたいと思います。とりあげるのはフィンランドのスウェーデン系作家トーヴェ・ヤンソン。いわずとしれた『ムーミン』の作者です。実はトーベは1970年代以降児童文学の筆を折り、以降20年以上にわたって大人向けの一般文学を書き続けてきました。その作品はひんやりとした手触りが心地よい硬質な感触のもので、小説に共感を求める人よりは、むしろそっけなく突き話されてあれこれと想像を逞しくするタイプの読み手に好まれるたぐいのものでした。そうした作品群もムーミンを手がかりにして読めば理解しやすい、と提唱されておられるのが生前のヤンソンと交流もあった冨原眞弓さんです。このたび雑誌「冥」では(19日発売!)、その冨原さんの監修の下、トーヴェ・ヤンソン特集を実現しました。「冥」記事を手がかりに、ヤンソンの世界を読み解く試みをガイブン酒場でもやってみたいと思います。乞うご期待。

 世界文学にはまだあまりなじみがないけど、おもしろいものならなんでも好きだから、その扉をノックしてみたいなと思っている方、特に歓迎いたします。一緒に文学の世界を探検してみませんか?

 詳細は以下のとおり。お待ちしております。

[日時] 2013年4月19日(金) 開場・19:00 開始・19:30

[会場] Live Wire Biri-Biri酒場 新宿

     東京都新宿区新宿5丁目11-23 八千代ビル2F (Googleマップ

    ・都営新宿線「新宿3丁目」駅 C6〜8出口から徒歩5分

    ・丸ノ内線・副都心線「新宿3丁目」駅 B2出口から徒歩8分

    ・JR線「新宿」駅 東口から徒歩12分

[料金] 1000円 (当日券200円up)

※終演後に出演者を交えてのフリーフード&フリードリンクの懇親会を開催します。参加費は2800円です(当日参加は3000円)。懇親会参加者には、入場時にウェルカムの1ドリンクをプレゼント。参加希望の方はオプションの「懇親会」の項目を「参加する」に変更してお申し込みください。参加費も一緒にお支払いただきます。

※懇親会に参加されない方は、当日別途ドリンクチャージ1000円(2ドリンク)をお買い上げください。

※領収書をご希望の方は、オプションの「領収書」の項目を「発行する」に変更してお申し込みください。当日会場で発行いたします

 ご予約はこのサイトからお願いします。