こんばんは、杉江松恋です。

 1月26日(日)は、スーパーフラット読書会「杉江松恋の読んでから、来い」第14回の開催日です。みなさん、準備してますかー。

 今回の課題作はアイルランド作家フラン・オブライエンの『第三の警官』、長らく絶版になっていましたが白水uブックスで復刊されました。白水社さん、偉い!

 自分でもずいぶん前に読んだきりですっかり内容を忘れていたのですが、絶対におもしろかったはずというという記憶だけはしっかりとありました。今回の読書会のために読み返してみて、びっくり。あ、これド・セルビイの小説じゃん!

 ド・セルビイをご存じない方のために、あるエッセイを引用しましょう。

 小林信彦『つむじ曲りの世界地図』です。そうだ、この本で『第三の警官』という小説を知ったのだった。

 フラン・オブライエンの前衛小説「第三の警官」に名が出てくる、ド・セルビイという物理学者兼哲学者がいる。

 このド・セルビイ氏のおこなう旅行方法は風変わりなもので、バスからフォークストンに旅するに際して、その路線の沿線風景を描いた絵葉書を買い込み、それを持ってバスにある旅館の一室に入ってしまった。

 これによって、彼は〈フォークストンへの往復旅行をすませて戻った〉と断言したというし、当日、フォークストンの銀行から彼が出てきたところを見たという人さえいたようである。

 日本人の海外旅行がヒンシュクを買っているおりからこの〈ド・セルビイ方式〉は、心からおすすめできるものである。行くべき土地の絵葉書を抱えて、十日なり一か月なり、自室に閉じこもるのである。さらにガイド・ブックが一冊あれば、どこの土地についても、たちまち〈通〉になれるかも知れない。

 長くなるのでこのへんにしておきますが、小林のこのエッセイは日本人が大挙して海外旅行を始めた、いわゆるジャルパック現象を皮肉ったもので、書斎派の世界旅行記とでもいうべき内容です。エッセイはこのあと、植草甚一が一度もニューヨークに行ったことがないのに始めて旅行する若者にグリニッチ・ヴィレッジの地図を書いて渡した、なんて話が出てきて誠におもしろい。

 このド・セルビイというのは引用文中にあったとおり、まことに珍妙な理論を立てる科学者です。『第三の警官』の主人公である〈ぼく〉は、このド・セルビイ理論にはまってしまい、家業もほったからしにして研究を始める。そのために悪い男に騙されて家も牧場も経営するパブも取られそうになり、あげくにその男と凶暴して富裕な老人を殺害し、その金庫を奪おうとするのです。しかし相棒が金庫を隠してしまう。勝手にそれを我がものにされたら困ると、〈ぼく〉はその日から相棒とべったりくっついて暮らすようになります。それこそベッドの中までも。そしてある日、念願叶って金庫を我が手で開けられることになるのですが、異変が起きて未知の世界に彼は飛ばされてしまう。そしてそこで、自転車と歯医者のことばかりを気にする奇妙な警官たちに出会うのです。

 ——と冒頭部分を紹介してみましたが、この小説であらすじを紹介してもあまり意味がない。とにかくナンセンスな笑いがおかしく、1ページめくるごとに笑いがこみ上げてきます。その味をぜひみなさんにも体験いただきたく、このたびの読書会の課題作に選びました。

「読んでから、来い」のルールは1つ。参加者全員にA4用紙1枚のレジュメを切っていただきます。内容は簡単なものでもけっこう。文章を書くのが苦手な方は絵でも大丈夫。俳句を作ってこられた方もいました。もちろん図でもいいです。とにかくご自分がおもしろいと感じたことを何かで表現してきてくだされば。レジュメのサンプルは、こちらのサイトにございます。

 もちろん未読でも、読んだけどレジュメは書けなかったという方にもご参加いただけます。ただし、レジュメを書いた方は500円割引というルールですので、悪しからずご了解ください。

 読書会では最初にみなさんのレジュメを披露いただき、その後にフリートークで議論を交わすという流れです。レジュメを切ったほうがおもしろい理由はそこにもあり、自分の話したいことをレジュメで問題提起できるのです。本についてとことん話し合う楽しみを、この読書会でぜひ味わってください。

【日時】1月26日(日)16:00 開場/17:00開始

【場所】荻窪ベルベットサン

【参加費】1,000円。レジュメを提出した場合は500円。いずれも+1ドリンクオーダーをお願いします。

【参加申込】tron@velvetsun.jp へお願いします。レジュメ提出の方はデータを上記アドレスへ送付の上、当日20部ほどコピーを会場にお持ちください。詳細、御予約はこちらからもどうぞ。

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