皆さまこんにちは。

 初回は台風、二回めは世話人の急病と、波乱含みのスタートのおかげですっかりトラブル慣れした(笑)東東京読書会も、おかげさまで五回めを無事に終えることができました。これからもよろしくお願いします。

 さて今回の課題書は、現代アメリカを代表する作家ポール・オースターが1985年に発表した『ガラスの街』。探偵、調査、張りこみ、犯罪……は登場するものの、いわゆるミステリーの枠にはまったくあてはまらない作品です。

「そもそものはじまりは間違い電話だった」。ニューヨークの街に住む作家ダニエル・クィンは、ある夜、一本の間違い電話を受ける。クィンはなりゆきで探偵らしき“ポール・オースター”を装い、依頼人である知的障害をもつ男に会うことになった。男の妻が話すところによると、彼は長年、父親に窓をふさいだ部屋に閉じこめられた生活を送っていた。父親は捕まったものの、明日出所するという。どうか彼を守って欲しい——。ポール・オースターになりすましたクインは、依頼を引き受けるが……。

 当日の参加者は大人16・学生3の合計19人、男性5人・女性14人という割合でした。この作品はさまざまな解釈が可能で、いくらでも深読みのできる小説である反面、ミステリーの枠組みに慣れた読者さんはとまどうかも……と、世話人たちはちょっぴり危惧していたのですが、蓋をあけてみたら、いつにも増して活発なディスカッションが!(以下、多少のネタバレを含みますのでご注意ください)

 まず最初に、読んでみての感想をおききしたところ、

「村上春樹の『1973年のピンボール』を思い出す」「不幸な結末を淡々と受け止めるところは、カフカの『変身』みたい」「当時のミステリー界の流れ、たとえばハイスミスとかと同じなので、違和感はない」「安部公房の作品と共通するところがあるのでは」「『ドン・キホーテ』的な命題、つまり“作者は誰なのか?”と同じ構造なのかも」「これはキュビスム(自己を分解して再構成することでの自分探し)や、神話・英雄的な旅(父親殺し・再生・帰還)をモチーフにしていると思う」

 ……本好きの底力を見くびってました、すみませんすみません(世話人、汗だく)。

 幅広い解釈のできる作品なので、皆さんご自分の読書体験に照らし合わせて、いろいろ比較されていたようです。また、はじめは「全然わからなかったので、皆さんの意見をききたくて来ました」と、おっしゃった方も、だんだんディスカッションが盛り上がってくるにつれ、胸に秘めていた(?)感想や印象を発言してくださいました。

「登場人物の名前がニューヨーク三部作のあと二つの作品や、『ドン・キホーテ』『ウィリアム・ウィルソン』などと関連しあっていたり、メタファーになっていたりして、いろいろなことが重ねあわされて面白い」「昔はオースターを読むのがカッコイイ時代で、そのときはすらすら読んだけれど、いま読んでみると深い」「人生の真理をついていて、かつコミカルなところがウディ・アレンっぽい」「すべてを失う主人公は、すべてを得たともいえる」

 なかには、こんな感想も。

「これは作者からいまの妻へのラブレターってことですよね?」「結婚しないとヤバイって話」「この作品のテーマはずばり、“孤独なヤツは破滅”ということだと」

 うーむ、英訳してオースターに伝えてさしあげたい(嘘です)。

 ともあれ、読書会は誰でも自由に気楽に意見を言い合う場所ですので、どんなものでも大歓迎です。人の数だけ意見あり、感想に貴賎なし。どんどん発言して、作品への愛をぶつけあいましょう。

 そしてディスカッションのあとは、いま話題の『ジャンル別 洋書ベスト500』(渡辺由佳里著)を一冊と、初回でのおみやげ・シャーロックのブックカバー(5枚)のプレゼントをめぐって、熱いジャンケン大会となりました。

 また、当日のレジュメには、『ガラスの街』を訳された柴田元幸さんから特別にいただいたメッセージを掲載しました。参加者限定ですので、残念ながらここには載せられないのですが、柴田さんのオースターへの深い敬愛が感じられる文章でした。

 本会終了後は15名プラス世話人で二次会のレストランへ。初対面の方々が大半だったにもかかわらず、ここでもにぎやかに盛り上がり、さらに三次会へと繰り出した面々も。

 今回はいつもの東京東部やブックカフェではなく、都心の公共施設を使うという初の試みでしたが、参加者さんたちの熱い読書愛のおかげで楽しく充実した読書会となりました。あらためて、皆さんお疲れ様でした&ありがとうございました!

 次回の東東京読書会は初夏の頃を予定しています。いつもと同様、通もマニアもビギナーもウェルカム。皆さんの参加をお待ちしております。

 それではまた、東京のどこかでお会いしましょう。

青木 悦子(あおき えつこ)東京出身&在住。本とクラシックとブライスを偏愛し、別腹でマンガ中毒。翻訳ミステリー東東京読書会の世話人。主な訳書:マイクル・コリータ『冷たい川が呼ぶ』『夜を希(ねが)う』、J・D・ロブ〈イヴ&ローク・シリーズ〉、ジェシー・ハンター『よい子はみんな天国へ』など。ツイッターアカウントは@hoodusagi

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