「君にも見えるガイブンの星(ガイブン酒場改め)」とは、本来はミステリー・プロパーの読者である杉江が、世界のさまざまな文学を読むことに挑戦してみたいと考えて始めたイベントです。その月以降に出る外国文学を早読みし一足先に内容をご紹介するという趣旨で、河出書房新社、新潮社、白水社、早川書房の各社にご協力いただいて開催をしております。心強いイベント・パートナーは、書評家の倉本さおりさん。2人してうんうん唸りながら山と積まれた本を読んでいます。

 前回の6月分から、新刊紹介と作家特集を分けて隔月開催としました。新方式スタート後最初の作家特集は、傑作選集『この世界の女たち』が刊行されたばかりのアン・ビーティでした。帯に推薦文を寄せられた作家の山内マリコさんをお招きし、ビーティの魅力について語りあいます。

 アン・ビーティは1947年にワシントンDCで生まれました。コネティカット大学で英文学修士号を取得後、1978年以降は執筆に専念する生活を送っています。1960年代に青春時代を送った彼女は、1969年のウッドストック・フェステイバルを頂点とするカウンター・カルチャーの直撃世代ですが、彼らが老いて日常に埋没するしかなくなった後の姿を皮肉をこめて描き出し、注目されるようになりました。

 ビーティは中産階級の家庭出身ですが、ほとんどの作品の登場人物は同じ階級のワスプであり、世間的に見ればなんの不自由もしない身の上である人々です。彼女の主人公たちは無口で、心の内を大袈裟に表明したりはしません。しかし心の中までが同じように波のないものだとは限らない。ビーティは、登場人物たちの心象風景を日常の風景や何気ない仕草に託して表現する途を選んだのです。その手法は政治的参加や大テーマを扱う姿勢を旨とする立場のひとびとから批判を受けましたが、そうした日常でしか書けないテーマが文学の中にあることを発見したという意味でビーティの功績は大きいものがあります。そうした手法は「ミニマリズム」と呼ばれます。その言葉の中に当初は揶揄的な意味もあったと思われますが、にもかかわらずミニマリズムは現代の小説の無視できない重要な技法になっています。

 ビーティと彼女が代表するミニマリズムの作家たちについてお話することをイベントの一つの柱にしたいと思います。もう1本の柱は1980年代という時代そのもの。このころに日本に紹介され、大きな影響を与えた女性作家たちの群像についてお伝えしたいと思います。(イベント前にレジュメも公開予定)

 今回のゲストは、女性のための女性によるR-18文学賞受賞作家である山内マリコさんです。山内さんは『この世界の女たち』に推薦文を寄せておられますが、地方都市に暮らす女性たちの現状をファンタジックな筆致で描き出す山内さんの作品の中には、きっとビーティと共鳴するものがあるはずです。山内さんと一緒にビーティを勉強し、その世界の中に遊んで見たいと思います。共鳴の果てに何が起こるか。会の主催者にも見当がつかず、楽しみにしております。みなさま、ぜひお見逃しなく。

[日時] 2014年6月13日(金) 開場・19:00 開始・19:30

[会場] Live Wire Cafe(Biri-Biri酒場改め)

     東京都新宿区新宿5丁目11-23 八千代ビル2F (Googleマップ

    ・都営新宿線「新宿3丁目」駅 C6〜8出口から徒歩5分

    ・丸ノ内線・副都心線「新宿3丁目」駅 B2出口から徒歩8分

    ・JR線「新宿」駅 東口から徒歩12分

[料金] 1000円 (当日券200円up)

※領収書をご希望の方は、オプションの「領収書」の項目を「発行する」に変更してお申し込みください。当日会場で発行いたします。

 ご予約はこのサイトからお願いします。

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