翻訳家、作家、ハードボイルド研究の日本における草分けにして第一人者であり、翻訳ミステリー大賞の発起人のひとりでもある小鷹信光氏が、かねてより膵臓癌のため闘病中のところ、本日12月8日・午前8時45分、享年79にて逝去されました。ここに事務局よりつつしんでお知らせし、故人のご冥福をお祈りいたします。
小鷹信光氏は、1936年岐阜県生まれ。早稲田大学第一文学部英文科卒。ワセダミステリクラブOB、日本推理作家協会、日本冒険作家クラブ、「マルタの鷹協会」会員。
大学在学中からハードボイルド小説の研究と翻訳をはじめ、訳書は100冊を超えます。代表的な訳書にダシール・ハメット『マルタの鷹〔改訳決定版〕』『デイン家の呪い(新訳版)』、ジェイムズ・M・ケイン『郵便配達夫はいつも二度ベルを鳴らす』、ジェイムズ・クラムリー『酔いどれの誇り』、リチャード・スターク『悪党パーカー/人狩り』、ベンジャミン・ブラック『黒い瞳のブロンド』など。本年11月には『チューリップ ダシール・ハメット中短篇集』が刊行されたばかりです。また多くのアンソロジーの編纂でも知られるほか、テレビドラマにもなった『探偵物語』など創作も手掛けられました。
翻訳以外にも評論、研究、エッセイの分野でも多くの業績をのこされました。その一冊、自伝的評論エッセイ『私のハードボイルド 固茹で玉子の戦後史』で第60回日本推理作家協会賞「評論その他の部門」を受賞しています。『パパイラスの舟』『ペイパーバックの本棚から』『私のペイパーバック ポケットの中の25セントの宇宙』などミステリーとその周辺にまつわるエッセイも多くの愛読者を得ました。ハメットやチャンドラーの原文から英語の奥深さをつづる『アメリカ語を愛した男たち』、翻訳家の仕事の実際、台所事情から実践的な翻訳のコツまでをあつかう『翻訳という仕事』も広く読まれています。
ハヤカワ・ミステリマガジンでは2015年11月号より雑誌内雑誌〈小鷹信光ミステリマガジン〉を連載。現在書店にならんでいる2016年1月号には、「小鷹信光 著書・編纂書 全解題」(小山正・杉江松恋・吉野仁)が掲載されています。その偉大なる業績をぜひともお確かめください。また1月25日発売の同誌では追悼特集が予定されています。