※読書会参加者有志のみなさんによる「海外読書会」のレポートが届きました。お楽しみください。
また、自発的、自然発生的な読書会やファンイベントについて、レポート等掲載のご希望があればご相談ください。(事務局)
大家好!
さる2月末に台湾で行われた読書会のレポートをお届けいたします。
課題図書は『ぼくは漫画大王』(胡傑 著 稲村文吾 訳 文藝春秋社)。第3回島田荘司推理小説賞受賞した作品です。
家出していた妻が帰宅すると、居間で夫が殺され、息子は自室に閉じ込められていた…という密室殺人から物語はスタートします。
家庭も仕事も巧くいっていない冴えない男・方志宏と、漫画にどっぷりはまった「健ちゃん」の物語が、文体を変えつつ交互に語られ、破局に向かっていく。そんな企みに満ちたミステリなのです。
読書会の会場は台北の大同地区にあるミステリ専門の貸し本屋『偵探書屋Murder Ink』。美味しいお茶を頂きながらミステリを読み耽ることのできる夢のような場所です。
店内に入ると洋の東西、新旧を問わずミステリが並んでいます。華文訳書、原書…。これを見るだけで興奮しちゃいます。はあはあ…。ここに何日でも居座って手当たり次第に棚の本を読みたい…。
ここは他にも新刊本やオリジナルグッズの販売、ミステリ関連のイベントなども行っています。
当日の参加者15名の内訳は日本人9人、台湾人4人、香港人1人。そしてなんと作者の胡傑さん!
『ぼくは漫画大王』の出版記念イベントで来日された際に、ご著書で読書会を企画していると伝えたところ、「必要でしたら参加しますよ」と実に快く仰ってくださったのでした。
仰ってくださったからには遠慮しません! 勿論必要です! 当然お呼びします!
と言うわけで、世話人も予想だにしていなかった作者参加の読書会と相成りました。
まずはこのミステリの一番の特徴である12章から物語が始まることについて。
胡傑さんによると最初は順番通りに書いていたものの、島田賞への応募直前になってミステリとしてのインパクトを考えて12章を最初に持ってきたとのこと。
「違和感はなかった」
「ここにこの作品のポイントがあると思って読んだ」
「むしろ気が付かなかった」
導入部で躓いた参加者はいなかった模様。っていうか、胡傑さんの思惑を完全に無視してますね。それだけ物語が自然だったと言うことでしょうか。
作中に出てくる漫画についても、言及がありました。
台湾では過激なシーンがあるとその部分は抜き取られてしまったそうで、日本では10巻完結の漫画が台湾では8巻完結だったりすることも珍しくなかったとか。それでも当時の子供たちは日本の漫画に熱狂したのだとか。
胡傑さんも「漫画大王」で、作中の少年漫画はほとんど読んでいたそうです。買ったくれたのはお父さんではなくお祖母さんで、中文版には冒頭におばあさんへの謝辞があります。
子供の頃に同じ漫画を読んでいるというだけで、ぐっと縮まる距離があります。
「健ちゃん」と同じようにベッドの下に漫画を隠していた胡傑さん、「漫画が増えるにしたがって天井がどんどん近づいてくるんです」と参加者を笑わせた後、「だからこれは僕の私小説なんです」と仰っておりました。
台湾在住の参加者からの「方志宏の求職シーンが身につまされる」との意見には、特に台湾の階級社会にスポットを当てたわけではなく、父親が行ったことが子供に与える影響と結果を書きたかったと。
なるほど。だから一貫してあの書き方なのですね。
日本の参加者からの「ミスリードを誘う冒頭のテレビシーンが効果的で素晴らしい」と言う意見には、「実はあのシーンは原作にはないのです。」と重大発言。
翻訳者の稲村氏からテレビのシーンを入れたほうが良いと助言をもらい、その通りにしたと聞いて一斉に原書と日本語版を捲る参加者たち。確かに原書にはありませんでした。ううむ。あそこは結構重要なポイントだと思うんだけどそんな秘密があったのかー。
ついでにラストシーンについて台湾では賛否両論あったそうです。もっときちんと結末を書けという意見もあったようで、日本の参加者が口を揃えて「あの終り方がいい!」と言ったときには、胡傑さんは非常に安心したように見えました。
課題図書以外にも胡傑さんの新作について話を聞いたり、先の執筆予定について尋ねたり、あっという間の2時間でした。
散会後は胡傑さんとはお別れ。参加者たちは熱炒(台湾居酒屋)に場所を移して、今度は台湾SF界のセミプロ作家さんたちと交流会などして、台湾読書会は盛り上がりの内に幕を閉じたのでした。
世話人としては今回の仕切りで問題点などを新たに確認できたので、次回があればよりよい方法を模索していこうと思います。海の向こうで本について語りたい方がいらっしゃいましたら、どうぞお気軽にご参加下さい!
後日、胡傑さんから参加者に向けて日本語でメッセージを頂きました。
「私は非常に讀書會に参加することができるように光栄です。日本は世界最高の読者の読者です。ありがとうございました。」
よしだ熊猫(よしだ くまねこ) |
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旅と本とご飯を愛するイラストレーター。『楽しく学ぶ数学の基礎』『マンガでわかるメンタルトレーニング』等でイラストを担当。現在はお堅い某業界紙をほんの少し柔らかくするためのイラストを描いています。Twitterアカウント @beargart |