Et, si quelqu’un avait pu les surprendre à cet instant, c’eût été un spectacle émouvant que la première rencontre de ces deux hommes si puissamment armés, touts deux vraiment supérieurs et destinés fatalememt par leurs aptitudes spéciales à se heurter comme deux forces égales que l’ordre des choses pousse l’une contre l’autre à travers l’espace.

もしこの瞬間を見ている者がいたならば、さぞかし胸躍らす光景だったろう。何しろ、初めて両雄があいみえた一瞬なのだ。二人は人並みはずれた能力ゆえに、いつか相対さずにはおかない運命にあった。いずれも劣らぬ互角の力は、やがて空間を超えてぶつかり合うのが世の常なのである。

モーリス・ルブラン「遅かりしシャーロック・ホームズ」(『怪盗紳士ルパン』ハヤカワ文庫所収)

 ルパン・シリーズのなかでルパンとホームズは何度か対戦をしているが、これはその二人が初めて顔を合わせるシーンである。もっとも、ここではまだすれちがって声をかけ合うだけだが、お互い相手の能力を一瞬にして見きわめ、ライバル心を燃やしているのがよくわかる。まるで目に見えない火花がバチバチと散っているかのような印象すら受ける、シリーズ中屈指の名場面と言っていいだろう。

 こういうところは、なるべく簡潔で勢いのある訳文にしたい。そこで問題になったのが、《ces deux hommes si puissamment armés》の訳し方だ。直訳的には「かくも強い力を備えたこれら二人の男」だが、もちろんそんなもたもたした訳はしていられない。できればひと言でズバリと決めたいではないか。そしてはたとひらめいたのが《両雄》という言葉だった。「両雄必ず争う」や「両雄並び立たず」という言い回しも連想させ、まさにこの場のためにあるような言葉だ。

 でも既訳では、ここをどうしているのだろう?わたしが思いつくくらいだから、前にも同じような訳をしていてもおかしくない。そう思って手元にあった主な既訳7冊に目を通したところ、意外なことに「両雄」と訳しているものはひとつもなかった(もしかして、参照できなかったものなかにはあったのかもしれないが)。「この二人の強豪」、「この両強豪」、「武勇なこの巨豪二人」というのが主なところ。たしかに、これはこれで悪くはなかろう。けれどもそこに、「両雄」という訳語を新たに付け加えたことだけでも、新訳を試みた価値はあったのではないかと密かな自己満足に浸っている。

平岡敦