第7回翻訳ミステリー読者賞の発表から2週間が過ぎました。改めて、投票していただいたみなさまに心から感謝申し上げます。また、シンジケート事務局にも大変お世話になりました。

 今回の読者賞だよりは、4月14日に開催された「第十回翻訳ミステリー大賞授賞式&コンベンション」に参加した所感をお伝えしてみたいと思います。行きたくても行けなかった……というみなさまに、少しでも雰囲気をお伝えできれば幸いです。

 今回で10回目となる授賞式&コンベンションですが、大田区産業プラザPiOでの開催は4回目ということもあり、福岡から出向く私にとってもすでに慣れた道のりという感じ。蒲田は羽田からのアクセスもよく、電車のタイミングがよければ羽田に着いて数十分で現地に到着することができます。

 私が会場に到着したのは12時過ぎ。まだ受付は準備中でしたので、近くにいらっしゃった事務局の方々に1年ぶりのご挨拶をしてから、読者賞発表に使うスライドのチェックをさせてもらいました。動作に問題のないことを確認してからは、13時のスタートまで特にやることもないので、いただいた配布資料を眺めたり、ぼちぼちと集まり始めている一般参加者の中から見知った顔を見つけては挨拶をする、という時間を過ごします。正直に白状してしまいますが、本当に1年ぶり、となるとすっかり失念してしまってたり、あるいはお顔とおなまえが一致しなかったりと、ご挨拶もしないままで失礼してしまった方もいらっしゃるだろうなあと……。年を経るごとに人の顔を覚えるのが苦手になってしまっているのと、生来の面倒くさがりな性格が災いして、失礼をしてしまった方には大変申し訳なく思っております。この場を借りてお詫び申し上げます……。

 さて、時間も13時を回り、いよいよプログラムのスタートです。最初は『「七福神」でふりかえる翻訳ミステリーこの1年』。当サイトの人気連載「書評七福神の今月の一冊」から4福神が登壇。それぞれが選んだ月間ベストを振り返りつつ、2018年を総括します。

 すでにコンベンションでは定着しているこの企画。配布資料のなかに、大賞の対象期間である2017年11月~2018年10月までの七福神の選書がリストアップされたものが入っており、それを眺めながら登壇者の話を聞きます。この期間に七福神が選んだ作品は全部で56作品。毎年その数の多さに驚き、また自分の未読の多さを嘆くことになるわけですが、ここに挙げられなかったものにも傑作秀作は多数あり、翻訳ミステリーというジャンルの層の厚さを実感させられます。あと毎年、北上次郎さんのご発言に注目が集まるのですが、今回はなんというか、発言しないことによってそのよさを伝えようとする芸(?)に驚愕しました(グリーニーのことを振られて)。毎年楽しみな企画ですが、いつか、七福神が勢ぞろいする日は来るのかしら? などと毎年考えてしまいます。

 休憩を挟んで、次は「翻訳ミステリー大賞発起人鼎談」。5名の発起人のうち3名が登壇し、翻訳ミステリー大賞の10年をふりかえっていただく企画でした。資料として、「翻訳ミステリー大賞受賞作・候補作一覧」として、第一回から第九回までの受賞作と候補作、開催日、場所、および今回の候補作が記されたものが配布されていました。創設前後の事情や、発起人のみなさんの当時の話など、大変興味深い話ばかりでしたが、個人的には、全国読書会と読者賞に触れていただいたことがとても印象的でした。全国読書会は、2011年初め、東京大阪福岡の3地区連続読書会からスタートして、その後全国に広がって今に至ります。読者賞は、第三回のコンベンションにおける酒席での思いつきから始まって、主に読書会参加メンバーの協力を得つつ1年かけて準備をし、第四回コンベンションで実現させたものです。

 『翻訳者として読者のみなさんに特に読んでほしい翻訳ミステリー』を選ぶという主旨で開催される翻訳ミステリー大賞。翻訳ミステリーについて、ネタバレを気にせず思い切り語り合う場としての翻訳ミステリー読書会。どちらも、ひとりでも多くの人に翻訳ミステリーを手にとってほしいという願いを込めて開催されています。読者賞もいずれ、その一端を担えるように今後も精進していきたいと思います。

 次の企画は、「第5回フランス語短編翻訳コンテスト表彰式」でした。フレンチ・ミステリー翻訳者高野優さん主催のコンテストです。まだ日本では紹介されていない作品の発掘を目的に開催されています。これまでの5回で205編の短編が応募され、いくつかはミステリマガジンにも掲載されたとのことですので、みなさんもごらんになっているかもしれません。今回は、ティエリー・ジョンケの短編が第1位に選出されましたが、他にもシムノンやフランク・ティリエなどの名前があり、かなり気になりました。いつか読めることを楽しみにしています。

 次は、これも恒例となった「出版社対抗イチ推し本バトル」です。今回は集英社、小学館、東京創元社、ハーパーコリンズ・ジャパン、早川書房の5社で競うことに。各社とも、3分という限られた時間でイチ推し作品の魅力を存分に伝えていただきました。バトルなので、観客の投票で順位は決まってしまうものの、どの作品もイチ推しだけあっておもしろそうで、刊行がとても楽しみです。配付資料には、イチ推し作品だけでなく、2019年の刊行予定なども入っていて、いち早く情報を入手できるのも参加者の大きなメリットと言えるかもしれません。

 ということで、残すは「第7回翻訳ミステリー読者賞&贈賞式」「第十回翻訳ミステリー大賞リアルタイム開票&贈賞式」を残すのみとなります。もうすでに結果についてはご存じだと思いますがあらためて。

 第7回翻訳ミステリー読者賞と第十回翻訳ミステリー大賞は、アンソニー・ホロヴィッツ『カササギ殺人事件』(山田蘭訳 創元推理文庫)のダブル受賞となりました。おめでとうございます!

 ダブル受賞は過去に3度あり(読者賞の回数でいうと第3回、第4回、第5回)、これで4度目となります。投票者も投票方式も異なる大賞と読者賞でダブル受賞という結果。これは「翻訳者として読んでほしい!」と思った作品と「読者が一冊だけ選ぶとしたらこれ!」と思った作品が同じだったということで、とても幸せなことなのではないかと私は考えています。一方で得票数を見れば、大賞も読者賞も僅差だったわけで、大賞の最終候補に挙がった5作品すべてすばらしい作品なのだと言えるでしょう。読者賞にしても順位こそつきますが、投票された59作品すべて誰かのベストワンなのです。

 これから始まる長いGW期間中、何を読もうかなーと思っている方にはぜひ、大賞や読者賞に名前の挙がった作品を手にとってもらいたいと思います。『カササギ殺人事件』は言うまでもなく、『あなたを愛してから』『そしてミランダを殺す』『用心棒』『IQ』、どれを手に取ってもかまいません。というか本音を言えば全部読んでほしい。絶対損はさせません。もっと知りたいと思ったら、読者賞の全投票作品リストを公開してますので、そちらもぜひ参考にしてみてください。

 今年もまた、たくさんの作品が刊行されます。読書会や読者賞を通して、みなさまに新しい作品との出会いを提供できるよう精一杯がんばりますので、これからもご支援をよろしくお願いいたします。

 

大木雄一郎(おおき ゆういちろう)
福岡市在住。福岡読書会の世話人と読者賞運営を兼任する医療従事者。読者賞のサイトもぼちぼち更新していくのでよろしくお願いします。