11歳の誕生日の夕方、父親からプレゼントされた自転車にどうしても乗りたくて、日が暮れるのも厭わず外に飛び出した少女が、森の中で大きな穴に落ちてしまう。それは単なる事故ではなく、長年に渡って人類を混迷に陥れる出来事の始まりだった。

 少女が転落した穴の中で発見されたのは、金属製の巨大な「手」であった。その後「手」はアメリカ軍によって掘り出され、研究されることになるのだが、穴に落ちてから17年の時を経て、物理学者となっていた少女ローズ・フランクリンは、その研究プロジェクトを任されるという形で「手」と再会する。6000年も前に何者かによって埋められた巨大な「手」は、なぜ今見つかったのか。ローズは、他のパーツもおそらく地球上のあちこちに隠されており、それを集めて組み上げれば一体の巨大ロボットになると考えた。イリジウム合金製の巨大な「手」を研究するプロジェクトは、ここから巨大ロボット発掘計画へと形を変え、アメリカ政府や軍を巻き込んで加速していく。

 その後パーツは次々と発見され、ついに巨大ロボットは完成する。しかしこれはいったい誰がどんな目的で作ったものなのか、なぜパーツごとにバラされ世界中に隠されたのか、いくつもの謎はなにひとつ解明しないまま、プロジェクトチームはロボットの起動と操縦に成功する。白日のもとにさらされることになった巨大ロボット、その存在をめぐって、各国間では政治的駆け引きが繰り広げられることになる。

 シルヴァン・ヌーヴェルが描く巨神三部作の1作目『巨神計画』(佐田千織訳 創元SF文庫上下巻)は、ごく短く要約すればこのような話である。誰が? いつ? どうやって? なんのために? といった、作中で示されるさまざまな「?」は、提示されたままで明らかになることはなく、続編の『巨神覚醒』へと続いてゆく。

『巨神覚醒』では、前作から9年後、新たなロボットが突然ロンドンに出現するところから始まる。イギリス軍による攻撃はまるで歯が立たず、前作で組み上げられ、テーミスと名付けられたロボットがいよいよ実戦へと投入されることになる。

『巨神計画』では、パーツの発掘からロボットが完成する間の、プロジェクトに携わる人々や政府の動きを綿密に描く、いわば人間ドラマの側面が強かったが、第2作『巨神覚醒』では一転して、ロボットの格闘シーンも盛り込まれた活劇風の展開となる。前作で積み上げられた謎は徐々に明らかになりはするものの、物語がどのように収束するのかはまだ見通すことができず、読者はやはり多くの「?」を抱えたままである。

 最終作『巨神降臨』は、前作までにほのめかされている異星人の存在や、異星人とのかかわりを通して導き出した人類の選択が、地球の命運をどう左右していくのかを描く物語である。現実社会で起こっている分断、異種排斥、憎悪などを織り込みながら、異星人とロボットが人類にもたらした社会変化を描いてゆき、最終的には、人類はどうあるべきなのかを提示する形で物語を締めくくっている。この三部作は、日本のロボットアニメなどにインスパイアされて書かれたとのことだが、ロボットを操縦して敵を倒すという表面的なかっこよさだけでなく、作品に込められたテーマ性などの部分でも影響を受けているのだろうと感じる。日本のロボットアニメに重厚なテーマを扱った作品が数多くあることは言うまでもないし、ロボットSFにおいて、著者自身の主張をどのように織り交ぜていくかについても、多くの作品に倣ったのではなかろうか。

 おもしろいのは三部作全編が、インタビューや対話の記録、手記などから構成されていることである。そのため、客観描写がまったくなく、すべて誰かの主観で語られており、このような手法を選んだことによって、出来事の順序が前後したり、ある対話の中で別の事象が発生したり、またその同じ事象が別の人物の視点から語られたりと、時系列に縛られない自由な描き方を可能にしている。だからといって読みにくいとかストーリーを追いにくいということはまったくない。イメージとしては、テレビでドラマやサッカー中継を見ながらネットの実況(ツイートをリアルタイムで追ったりなど)を楽しむのにも似ている。著者がこのような効果を狙っていたのかどうかはわからないが、読書でそういう感覚を味わうのは、とても新鮮である。

 それにしても。著者はいったいどれだけの数の作品に影響を受けてきたのだろう。ちょっと考えてみただけでも、『UFOロボ・グレンダイザー』『伝説巨神イデオン』『新世紀エヴァンゲリオン』、アニメではないけれど『ジャンボーグA』、あるいは『パシフィック・リム』(これも日本のアニメからインスパイアされたのでしたね)などの作品が思い浮かんでくる。たぶんもっとあるはずだが、それほど詳しくない私にはこのくらいでいっぱいいっぱい。みなさんはどんな作品を思い起こすだろうか。元ネタを想像しながら読むというのも、楽しみ方のひとつであろう。

 巨神三部作はそれぞれ上下巻、全部あわせて6冊。独立した三作品となってはいるものの、個別の作品としてみるよりも、全6巻の長大な物語として読むべきなので、これから読まれる方はなるべくなら全巻揃えたうえでどうぞ。

 ミステリーファンの中には、SFだからといって本作にあまり興味を持たない人もいるかもしれない。翻訳ミステリー読者賞では、ミステリーかどうかについて投票者の判断に委ねているということもあり、これまでもミステリーという枠にはまらない作品に投票をいただいてきた。そのことが賞の幅を広げているはずだと思っているし、あまりジャンルにこだわらず、おもしろい作品をたくさん知りたい、そして紹介したいという気持ちもある。そんなわけで、今回はSFを取り上げてみた次第である。これからも、いろいろな作品を紹介したいと思っているのでどうぞよろしくお願いいたします。

 

大木雄一郎(おおき ゆういちろう)
福岡市在住。福岡読書会の世話人と読者賞運営を兼任する医療従事者。読者賞のサイトもぼちぼち更新していくのでよろしくお願いします。