1. レイモンド・チャンドラー『ロング・グッドバイ』(村上春樹訳、ハヤカワ・ミステリ文庫)
    2. ロス・マクドナルド『さむけ』(小笠原豊樹訳、ハヤカワ・ミステリ文庫)
    3. エリオット・ウェスト『殺しのデュエット』(石田善彦訳、河出文庫)
    4. アンドリュー・ヴァクス『ブルー・ベル』(佐々田雅子訳、ハヤカワ・ミステリ文庫)
    5. デニス・レヘイン『スコッチに涙を託して』(鎌田三平訳、角川文庫)

 ノーマン・メイラーふうにいうと、 “厚い権力の壁に向かって孤独な挑戦のトランペットを吹く” というのが、『ロング・グッドバイ』のフィリップ・マーロウの印象だった。かっこいい、孤独な誇り高き男。ハードボイルド・ミステリーの魅力の原点は、何といってもここにあった。だが、権力の壁は厚く、冷たい。そしてヒーローも傷つき、弱り、戦いを放棄して行く。『さむけ』に流れる色濃い宿命観。それでも誇りを失わないでほしいというのが私の願いである。『殺しのデュエット』には、男の哀しみが漂っていて捨てがたい。私もきっと年を取り、すこし優しくなったのだろう。

 ハードボイルド・ヒーローは、かつての主戦場だった西海岸からやがて東海岸へ。『ブルー・ベル』では、ニューヨークの無免許探偵バークが売春婦を次々と襲う連続殺人犯に立ち向かう。哀しい過去を持つストリッパーのベルと一緒に。私はこのベルが好きである。

 そしてボストン。デニス・レヘインの『スコッチに涙を託して』は、なかなかいい。これから私の好きなハードボイルド探偵はどこに向かって行くのだろうか。

権田萬治