じわじわきている。ゾンビ・ブームが。例によって本国アメリカでの余波を受けてのことだが、なにがなし今日のわが国の不安な世情とあいまって、確実に拡散・浸透しつつあるようだ。といっても、まだゾンビものの翻訳は数えるほどしかない。だから今回は紹介が激しく切望される未訳作品について述べることにしよう。

 そのまえにとりあえず、日本語で読める良質のゾンビ小説を五点あげておく(モーレツに基本的なセレクトだが)。


 マックス・ブルックス『World War Z』(文藝春秋)

 セス・グレアム=スミス『高慢と偏見とゾンビ』(二見文庫)

 S・G・ブラウン『ぼくのゾンビ・ライフ』(太田出版)

 スキップ&スペクター編『死霊の宴』(創元推理文庫)

 スティーヴン・キング『セル』(新潮文庫)

 次点として、デイヴィッド・ムーディ『憎鬼』(RHブックス・プラス)。まあ、これは自己宣伝。


 さて、ここからが本番。

Day By Day Armageddon (04) J. L. Bourne

 アメリカにおけるゾンビ小説は、いまやひとつのジャンルと化しているほどの出版点数を誇っている。したがってカスやゴミが圧倒的に多いのだが、そんなクソの山にあって評価の高い作家は、The Rising のブライアン・キーンや Monster Island のデイヴィッド・ウェリントン、 Dead City のジョー・マッキネー、そして本書のJ・L・ボーンあたり。本書は正統派ゾンビ・ファン向けの一冊。つまり、ロメロ監督の〈ゾンビ三部作〉を聖典と崇めているような読者には随喜の涙もの。日記形式で語られ、写真や図版、タイポグラフィなどを駆使してリアリティを出しているところは、『World War Z』ファンもOK。とにかく著者は元海軍将校なので、“ゾンビ対策マニュアル”としても有効だ(?)。

Pariah (10) Bob Fingerman

 これもまたロメロ・スタイルの正統派ゾンビもの。著者はグラフィック・ノベルの原作者としても知られている。〈ゾンビによる終末世界〉が舞台だが、物語は高層アパートに避難している生存者たちの言動に焦点が当てられている。極限状況におかれた生存者たちの精神がどんどんおかしくなっていき、かれらのほうがゾンビより怖いといった人間ドラマもの。そういう意味では、アメコミ『ウォーキング・デッド』(飛鳥新社刊行予定)風味+ソリッド・シチュエーション・ホラーといった感じ。物語の随所にフィリップ・K・ディックに関する言及があったりして、ちょっとそのへんがミソかも……。

Warm Bodies (10) Isaac Marion

 こちらは『ぼくのゾンビ・ライフ』タイプの作品。要するに、意識も感情もあって話すこともできる、生者に近いゾンビもの。で、本書がエグイのはラブストーリーであること。ゾンビの青年と生者の美少女との禁じられた恋。いわばゾンビ版『ロミオとジュリエット』。というか死体愛、死姦。よく言えばパラノーマル・ロマンスに近い。でも、恋人が吸血鬼とか人狼とか魔女ならまだしも、さすがに腐臭漂うゾンビはちょっと……なんて思っていたら、しっかり映画化されるとか。はたしてゾンビ版『トワイライト』となって、女の子たちのハートをゲットできるでしょうか?

Zombies and Shit (10) Carlton Mellick III

 著者は、ポスト・アヴァン・ポップとでも称すべきアヴァン・オタクな〈ビザール〉という最新鋭かつ過激な文学(?)一派の旗頭。その実態は単なる変態です(笑)。本書は、未来の人気リアリティTVのゲーム・ショウを背景としたサバイバル・ホラー。謳い文句には、『バトル・ロワイアル』が『バタリアン』と出会った、とある。隔離されたゾンビだらけの町を20人のイカレポンチどもが最後の勝者になるまで戦うというお話。読みどころは、キャラたちのおバカぶりと鬼畜ぶりと変態ぶりにある。なにはともあれ、B級エログロ・スプラッタ映画マニアにお届けしたい悪書。

Zombie Bukkake (09) Joe Knetter

 はい、おおとりは最低・最悪・変態・鬼畜・エログロ・スプラッタ・バカホラーです。本書の内容に関しては、すでにTwitterに連続投稿したことがあり、それを有志の方がTogetterにまとめてくださっているので、こちらを参照してください。

 で、ズルをしてもう一冊。本書と同じ臭いのする Deathbreed (11) Todd Tjersland がスゴイ。なにしろ、18禁だ。最悪のトロマ映画より最低・発狂している代物。エログロに対して確固たる信念と不屈のインモラルの精神の持ち主にしか勧められない鬼畜ゾンビ本。

◆おまけ「ゾンビ映画マイベスト5」

 『ショーン・オブ・ザ・デッド』おバカすぎる。

 『ブレインデッド』グロすぎる。

 『プラネットテラー』カッコよすぎる。

 『ゾンビ・ストリッパーズ』エロ、マン開すぎる。

 『セクシー・キラー』ハチャメチャすぎる。

風間賢二(かざまけんじ)1953年東京生まれ。武蔵大学人文学部卒。主著に『ジャンク・フィクション・ワールド』、『オルタナティヴ・フィクション』、『スティーヴン・キング』、『ホラー小説大全』など。訳書にS・キング『ダークタワー』、クーンツ『チックタック』、D・ムーディ『憎鬼』など。近刊訳書にアメコミ『ウォーキング・デッド』とJ・ニコルソン『装飾庭園殺人事件』が予定されている。ツイッターID @k_kazama

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