のっけから私事にわたってしまうことをお許し願いたいのだが、僕の家内がフーダニットという名のミステリー劇専門の劇団活動をやっていることはご存じの方が多いと思う。今年2009年で活動10年目、板に乗せたお芝居も20近くの演目数を数えている。中には、若竹七海さんのオリジナル台本が3編、辻真先さんのものが2編含まれていることが、我が劇団の誇りでもあるのだけれど、それ以外でもクリスティのものやフランス。ミステリー劇の鬼才、ロベール・トマなどの作品にも取り組んでいる。

 どうして、こんな劇団を作ったかの経緯については、実は、ついこの間の日本経済新聞10月16日付け朝刊の文化面(最終ページ)に大きく取り上げられたので、お読みになった方も多いと思うが、要するに、観客のみなさんを驚かせたい、その稚気から出発したようなものだ。

 ミステリー劇の醍醐味は、なんといっても様々な驚きが、同じ瞬間、大勢の他人と共有できることにある。どんでん返しのその瞬間、観客席にわっと沸きあがるものがある。

 だったら、それは映画でも同じじゃないと言う方がおられるかもしれないが、その驚きの共有が、舞台の上の役者さんたちまで伝染して渾然一体となる「臨場感」は、お芝居の世界にしかない。読書で味わうどんでん返しの興奮はあくまで、個人の内のもの。ある驚きを見知らぬ人と共有できて、それが、「その時・その場・その人たちだけ」が味わえる再現性のないものだというのが、貴重なのだと思う。

 「みんなの驚きが、我らの喜び」

 そんな単純なことで、劇団活動を続けてきたわけなので、今回のマイ・ミステリー・ベスト5もミステリー劇にこだわらせていただいた次第。

(つづく)