(承前)

 以上を理解したころには、当初の難しそうというイメージは吹っ飛んでおりました。「おおお、面白い!」と電車の中で読みながら興奮。マロリー大尉たちの任務には1200人の命がかかっているわけですよ。なんというかこう、問答無用でわくわくしてくる設定ですね。文章も読みやすく、軍事用語もわかりやすいですし、少年漫画的な面白さを感じました。

 しかも困難に立ち向かう5人が良い! 登場人物が大変魅力的です。マロリー大尉はもちろん、南部ヨーロッパきっての破壊工作員“フケツの”ミラーに、生まれながらの機関室の主・ブラウン。さらに若手ながらも優秀な登山家であるスティーヴンズ。そしてマロリー大尉の相棒、敏捷果断な豹のような男、アンドレア。彼らはさまざまな分野のスペシャリストであり、協力してナヴァロンの要塞に立ち向かっていきます。特にアンドレアが格好良い……。彼は仲間のためなら敵を殺すことも厭わない男です! いろいろと気がつくし、率先して戦闘に加わるし、そしてなにより影がある! 凄惨極まりない過去を背負っているのです。乙女(?)は影のある男に弱い(?)ものですから……。彼が活躍するたびにちょっと嬉しくなりつつ、一気に読破しました。本当に面白かったです。

 読んで気になったことが一点あります。それは登場人物たちが「なぜ闘うのか?」と悩まないこと。私だったら1200人の命がかかっているといっても悩むでしょうし、ナヴァロンに行くのは嫌です。が、マロリー大尉たちは悩まない。特命なのでやるしかないのですが、それにしても偉いなぁと思います。これは原書刊行が1957年という時代ゆえなのでしょうか。むしろ、冒険小説とは「闘う理由を悩まない男たちの物語」なのでしょうか。なにしろまだ一冊しか読んでいないので、この点を気にしつつこれからも読んでみたいと思います。

 たいへん拙い感想になってしまいましたが、面白さは保証付きですので、ぜひ書店でお買い求め下さい。既読の方はぜひ再読をお願いいたします。

 最後になりましたがシリーズタイトルの「冒険小説にはラムネがよく似合う」には、特に深い意味はありません。私が駄菓子のラムネ好きだと知った某翻訳家の方がつけて下さいました。冒険小説愛好家とともにラムネ愛好家も増やしていきたい所存です。ラムネを食べながら冒険小説を読みましょう!

 東京創元社編集部S

ひとこと

『ナヴァロンの要塞』は、目的地に無事にたどりついて使命を果たすことができるかというサスペンスを、内部にいる裏切り者は誰かという謎が支えるという構造で、敵地潜入ものの原型となった作品だ。つまり冒険小説という特殊なジャンルを、広義のミステリー的要素で支えている。その意味で初心者には入りやすいのではないか。ここいらあたりから徐々に、こちらの世界に入ってきていただきたいのである。

北上次郎