ミステリー界の巨匠ドナルド・E・ウェストレイクが二〇〇八年の大晦日の夜に休暇先のメキシコで亡くなってから、すでに一年経ってしまった。日本におけるウェストレイクの評価はまだまだ低いので、彼の多彩な才能を知っていただくために、木村二郎の選んだウェストレイクの邦訳作品ベスト5を順位なしで挙げてみよう。

『悪党パーカー/人狩り』

小鷹信光訳/ハヤカワ・ミステリ文庫

 一九六二年にリチャード・スターク名義で発表したパーカーもの第一作。妻と相棒に裏切られたプロの強盗パーカーが分け前を取り返すために、単身で犯罪組織に立ち向かっていく。二度映画化され、最近はアメリカで劇画化もされた。

『刑事くずれ/蝋のりんご』

大庭忠男訳/ハヤカワ・ミステリ*1

 一九七〇年にタッカー・コウ名義で発表した私立探偵もの。勤務中なのに不倫を働いているときに相棒が殺され、ミッチ・トビンは警察から追放されるが、有能なので無許可でも極秘の調査を頼まれる。シリーズ第三作では、神経内科病院内での連続事故を潜入調査する。人間の弱さが描かれ、謎解きの要素が強い。

『踊る黄金像』

木村仁良訳/ミステリアス・プレス文庫

 一九七六年に発表した痛快コメディー。空輸されたアステカ像十六体のうちから本物の黄金像を捜すために、小悪党どもがニューヨークじゅうを走りまわる。ハメットの『マルタの鷹』ともう一人の有名作家の傑作にヒントを得た“究極のニューヨーク小説”。

『斧』

木村二郎訳/文春文庫

 一九九七年に作風をがらりと変えて発表した時事的風刺小説。製紙会社を解雇された中間管理職の男が再就職のために、ライヴァルたちを冷徹に殺していく恐ろしく現実的な小説。なぜか読者は主人公に共感してしまう。

『泥棒が1ダース』

木村二郎訳/ハヤカワ・ミステリ文庫

 不運な泥棒ドートマンダーものは一九七〇年刊の長編『ホット・ロック』から始まったが、この二〇〇四年刊のドートマンダーもの中短編集は一九八一年から二〇〇〇年までに発表した短編群と書き下ろしの実験小説を収録した。“うまい”作家は長編にも短編にも長けていることを証明してくれる。

 ウェストレイクの傑作を五作だけ選ぶのはむずかしいが、彼の多才さを認識していただければ、読者それぞれの好みに合った作品がきっと見つかるはずだ。ほとんどが絶版なので、どこの出版社でもいいから、ぜひ再刊していただきたい。

 木村二郎

*1:〜残念ながらAMAZONで書影が出ません。図書館で探してみてください。〜