サイト管理人から、「なんでもベスト5」というコーナーに書け、と凄まれ(若干誇張があります)、こうしておずおずと書きだしたわけだ。とはいえ、今回とり上げるのは「ベスト」ではない。だって、私はまだ、アジアの現代ミステリーって五冊しか読んだことないんだもん(正直者)。

 ゼロ年代半ばのことだろうか、日本のミステリーが台湾で翻訳され盛り上がっているという話が伝わって来たのは。そして、現地でミステリーを書く作家が増えており、アジアの他地域でもミステリー隆盛の兆しがあるという動向が、少しずつ日本にも紹介され始めた。

 では、アジアでどんな作品が書かれているのだろうと探して最初に手にとったのが、『コリアン・ミステリ 韓国推理小説傑作選』だった。

 韓国推理作家協会のアンソロジーである。正直な話、平均点は高くない。オチの唐突なもの、ヒネリのないものも少なくない。とはいえ、夫婦間トラブルが皮肉な結末を迎える黄世鳶(ファン・セヨン)「本当の復讐」などは、どこの国でも結婚に関する認識(=ある種の諦観というかw)には共通するところがあるなと思わされ、興味深かった。

 一方、講談社は、昨年から「島田荘司選 アジア本格リーグ」全六冊のシリーズをスタートしている。このようにアジアのミステリー長編を読める機会も増えたわけだが、同シリーズで現在までに刊行された四冊に対する感想は次の通り。

台湾代表『錯誤配置』

 犯人は島田荘司か綾辻行人ではないかという冗談が作中に出てくるくらい、日本の新本格から影響を受けた作風である。しかし、ネタがそれ風でないのが、逆に意外。著者が産婦人科医だけあって医学的要素が主眼になっており、その側面を楽しむべき作品だろう。

タイ代表『二つの時計の謎』

 ハードボイルド調警察小説。有力者が警察の捜査に圧力をかけたり、同時刻に起きた事件をめぐる時計の謎を解き明かしたりといった展開がある。派手さや驚愕はないものの手堅く描かれており、好印象だった。

韓国代表『美術館の鼠』

 ハリウッドで映画化進行中なのだという。なるほど、美術界を舞台にして絵画に大きな意味を持たせた物語であり、文字を追っているだけでヴィジュアル面のインパクトが感じられる小説になっている。

中国代表『蝶の夢 乱神館記』

 これまでの「アジア本格リーグ」で、一番の面白さ。女霊媒師を探偵役にした同作は、怪異な現象を扱いつつ合理的な謎解きを行う。そうした方向性といい、見せ場で白い衣を身につけるヒロイン・離春(リーチュン)といい、黒衣をトレードマークにした京極堂シリーズ(京極夏彦)に通じる印象がある。キャラクターは鮮明だし、唐の時代に設定したうえでの幻想的雰囲気も濃厚だし、日本の本格ファンに受け入れられやすい作風だと思う。このヒロインの活躍をもっと読んでみたい。

「アジア本格リーグ」からは、このほかインドネシア、インドの作品の刊行が予定されており、講談社以外でもアジア・ミステリーの翻訳が予定されているようだ。今後、それらの作品が発表された時には、また感想を述べていきたい。

 円堂都司昭