授賞式レポート(影山ちひろ)

 本屋大賞の季節が今年もやってまいりました! 第9回目となる今回、特別企画として本屋大賞「翻訳小説部門」が設立されたのです。2010年12月1日から2011年11月30日までに日本で刊行された新訳を含む翻訳小説を対象に、書店員の方がひとり3冊を選んで投票。最も得票数の多かった作品が大賞として選ばれるというシステムです。翻訳小説、初の本屋大賞受賞作が決まるという記念すべき瞬間を目撃するべく、猫谷書店さんと共に昨夜、明治記念館で行われた受賞作発表会に潜入してきました。

 午後7時過ぎ、本屋大賞実行委員会理事長であり「本の雑誌」編集長である浜本茂氏の挨拶で発表会はスタート。会場の熱気が高まるなか、さっそく「翻訳小説部門」の大賞受賞作の発表に! 受賞作の発表者として登壇されたオリオン書房の白川さんが、今回の翻訳部門についての想いを語る。ふくらむ期待と緊張感。シャッターチャンスを狙うべくカメラをかまえて体を固定。が、そこでなぜかつりそうになる左足。いやいやいや、記念すべき瞬間をストレッチしながら迎えるなんてそんな情けないことをするわけにはいくまい……と思っていると「2012年本屋大賞翻訳小説部門の1位は……」という言葉が。はっとする。足がつる。そしてついに発表!

「フェルディナント・フォン・シーラッハ 酒寄進一訳『犯罪』!」

 おおお!!! すぐさま盛大な拍手が巻き起こる。そして現在、重要な案件を抱えており、残念ながら来日は叶わなかったシーラッハ氏に代わり(本当にギリギリまで来日を検討してくださっていたそう)訳者の酒寄進一さんが登壇され、花束の贈呈と受賞のスピーチを。

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 この『犯罪』は自分の訳書のなかでも決して忘れられない一冊だと語る酒寄さん。「翻訳者が訳さなければ、文学は世界文学にならない。翻訳者は単に言葉を言い換えるだけの存在ではなく、ある一人の作家を世界規模の作家へと押し上げる重要なファクターである」という言葉にしびれました。スピーチの中で特に印象的だったのが、いまドイツでは「ドイツ文学を世界文学へ」を合言葉に、自国の小説を海外に発信するべく様々な出版計画がたてられているというお話。その一環として各国のドイツ文学の翻訳者の方を招待され、寝食をともにしながら翻訳について語りあったり、現地で作者と翻訳者が直接対話をしながら翻訳を進めるといった非常に意欲的な試みが行われているのだそう。そのときドイツで酒寄さんがシーラッハ氏と対面したときのエピソードがWebミステリーズ!で読めますので是非!

 最後にシーラッハ氏からのメッセージが。そこには「近いうちに日本に行くことを約束します」という言葉とともに、なんとショートストーリーが添えられておりました。近々、アップされる予定(あくまでも予定)ですのでお楽しみに。その後、シーラッハ新作長篇について酒寄さんにうかがったのですが、「シーラッハにしか描くことのできない素晴らしい法廷小説」だそうです!

 こうして無事に発表と授賞式は終了。その後、さっそく本屋大賞のオビをまとった『犯罪』と書店員さんたちの手作りポップが登場しました。

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 投票結果をまとめると、1位:フェルディナント・フォン・シーラッハ 酒寄進一訳『犯罪』(東京創元社)、2位:サルバドール・プランセシア 藤井光訳『紙の民』(白水社)、3位:ケイト・モートン 青木純子訳『忘れられた花園』(東京創元社)、アンソニー・ドーア 岩本正恵訳『メモリー・ウォール』(新潮社)となりました。他にはどんな作品に票が入ったのかが気になると思うのですが、本日発売の「本の雑誌増刊 本屋大賞2012」に全ての結果が掲載されています。票が入った全ての作品に投票者のコメント付きです。数字としては「冬の時代」といわれる翻訳小説ですが、作品は良質なものがいっぱいだったなということを再確認。スタッフのみなさま、本当におつかれさまでした! 来年もあるといいな。

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■結びの言葉(猫谷書店)

 以上で「本屋大賞2012特別企画〈翻訳小説大賞〉」の特集はおしまいです。二日間に渡ってお付き合いくださり、ありがとうございました。私も未読だった『紙の民』『メモリー・ウォール』を読んでみましたが、上位4作品どれも本当に素晴らしかったです。翻訳小説大賞は素敵な本たちを読む機会を与えてくれたと思い、嬉しくなりました。

 今回の企画にあたって沢山の方々のご助力がありました。二日間ものブログジャックを許して下さった翻訳ミステリー大賞シンジケート事務局の皆様、取材と票数の開示、企画を許可して下さった本屋大賞実行委員会と本の雑誌社の皆様、本当にありがとうございました。そして、私の不躾な要求にも丁寧に答えて下さり、仲介をして下さった白川浩介様、突然の依頼を引き受けてくれた影山ちひろ様、原稿の細かな訂正や、時間厳守の発表に合わせて待機して下さった白石朗様。ご多忙にもかかわらず私のわがままに付き合いご尽力下さいました。感謝してもしきれないくらいですが、この場を借りて御礼申し上げます。心から、ありがとうございました。

 今週末には翻訳者の皆様が選ぶ「翻訳ミステリー大賞」が発表になりますよ!! それでは、これからの翻訳小説界が更に賑わうことを祈って。さよならさよならー!

猫谷書店(ねこやしょてん)

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翻訳ミステリ愛の書店員です。昨年【『死刑囚』売上100冊できるかなっ?】を寄稿させて頂きました。相変わらず本屋で働く毎日です。

影山ちひろ(かげやま ちひろ)

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1990年生まれ。慶應義塾大学在学中。

ミステリマガジンなどで原稿を書いたり、対談の構成をしたりしております。

趣味は読書と釣り全般! よろしくおねがいします。

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