1月10日(土)……世間では正月明け仕事始めの週末、新年会シーズン、そして成人式……。

 金沢では降雪シーズン真っ只中で、天候も安定しない時期。よく電車が止まり、飛行機は欠航してしまう……。

 こんな日に第5回金沢読書会開催! 参加者に試練を課すようなハードルの高さ。

 しかしながら、何と参加者10名! 県外からも参加者3名、そして今回の課題本であるエラリー・クイーン『ギリシャ棺の秘密』の翻訳者、越前敏弥先生もゲスト参加。更に中国人の初参加者も。インターナショナルな風まで吹いた。

 越前先生を含め、首都圏から参加の方々は、3月に北陸新幹線が開通するのに、何故この時期なのか? と、モヤっとした思いもあったであろう……。それでもこれだけ集まっていただけたのは、課題本の魅力、越前先生のダンディズム、共訳者である金沢読書会世話人、北田さんの尽力の賜物かと。

 そして、自分の下ネタを聞きにきた方も1人未満は存在したはずだ。

 今回は金沢下ネタ軍団(正規メンバー数不明)の参加者は3名と少なく、地元ながら完全にアウェイの勝負である。何に対する勝負かは分からないが……。

 開催場所は観光地である金沢西茶屋街に近い、元遊郭の趣あるスペース。元遊郭での猥談なんて、雰囲気ありすぎ〜!

 否、今回の課題本は古典ミステリであり、猥談的要素は皆無である。

 会は毎回恒例、金沢独特の人見知りな感じでスタートする。

 県外参加者の中には全国の読書会荒らし……失礼、読書会経験豊かな方もいらっしゃって、硬い雰囲気を和ませてくれていた。

 そして自己紹介へ。

 参加者はレジュメにプロフィールが書かれていたのだが……アレっ、越前先生の紹介が無いでないのっ! その上、作品紹介レジュメにも翻訳者略歴無し……な、何という失礼。

 憤慨した越前先生が帰るというエピソードは全くなく、ツッコミだけ頂いて会は進行したのであった。

〈世話人:詰めの甘さを発揮してしまいました。ご容赦を〉

 全体的な意見としては、初読が旧訳だった方は「若きクイーンへの愛のみで乗り切った」など、皆さんかなり手こずったよう。

 ただ、新訳版であれ、そもそもの内容が複雑をきわめるこの作品、「特にエラリー愛はないので、提示されるものをただただ受け入れる形で読み切った」「登場人物が多すぎ。人物表に何度も戻りながら読んだ」という方も多数。

 越前先生からは「エラリー・クイーンの国名シリーズはどれから読んでもいいけど、最初に“ギリシャ”は読まないほうが良い」との発言もあり、天候や開催時期以外に課題本でも参加へのハードルを上げていた模様。

 共訳者の北田さんも「訳していて永遠に終わらないかと思った」と、課題本に選んだ当人までソゲナことを……。

 彼女はドSなのだろうか……?

〈世話人:ちがいますっ。だいぶ前に喉もとを過ぎたので熱さを忘れてたんです〉

 ともあれ、“国名シリーズ初心者はどれから読むべき?”談義は、『シャム双子』もよいけどちょっと変化球すぎるので、『オランダ靴』がシンプルでよいのでは、というところに落ち着いたのであった。

 自らミステリの執筆もされている中国人の方からは「日本語……勉強中で特に……カタカナは見分けるの難しい」との発言。

 カタカナ人物だらけのこの作品で異国での読書会参加とは……何たるチャレンジ精神!

 彼はドMなのだろうか……?

〈世話人:ちがうでしょっ。一生懸命語ってくださるクイーン愛には感動的なものがありました〉

 タイムテーブルや図を書きつつ犯人当てに挑んだ強者もあったが、途中で力尽きたとのこと……。

 この作品で最後までそれをやってたら、夫婦生活が破綻しますわっ!

 番外的な意見として、「シムズ夫人が気絶し過ぎ、クイーンの作品自体、女性が気絶しまくる」「クイーンの作品はブサイクに対して表現が厳しすぎる」と言ったのは自分であります。まあ、ブサイクに厳しいのは今も同じでしょうが、クイーンの表現は毒舌すぎる。

 また、「エラリーがティーバッグを黙々と絞るシーンは地味に可笑しい」など、滑稽みのある場面が息抜きポイントになっているとのコメントも。

 面白い意見では、「ミステリ小説での探偵の役割はプレゼン。どう読者を納得させるかで、クイーンはプレゼン内容を飛躍させて誤魔化している」「論証を聞くほうも探偵の発言を信用しすぎ」「エラリーは常に横柄で支配者側に立って推理している」など。

 否定的な意見が多いようで、作品自体に対する否定はほとんど無し。「よくこんなものを書いた。作者は頭がおかしい」との、最大級の褒め言葉も出た。

 要するに懲りすぎと言うか、詰め込みすぎと言うか、サービス精神が有りまくりな感じ。

 なので、ディープなミステリファンには評価が高いし、歴史的な名作なんですね。

 で、『ギリシャ棺の秘密』と言えば、後期クイーン問題。

 金沢下ネタ軍団幹部にして、後期クイーン問題のスペシャリストの現役マジシャンがこの作品で5000文字のまとめを作成。

 読書会のレジュメより全然長いでないの!

〈世話人:これを見越してレジュメは短くしましたの(嘘)〉

 内容を書いたら5000文字追加なので、ここでは控えるが、渾身のまとめと解説のおかげで、自分の中では後期クイーン問題は解決したよ。

〈世話人:参加できなかったけど、この資料は見たかったというかたは、作成者のヤマギシ氏までお問い合わせを→ツイッターアカウント @rouis_ymgs〉

 最後の締めに、越前先生がプロジェクターを使って、旧訳と新訳の相違点などを紹介。うん、初読が新訳であった自分は幸せだ〜。

 各地の読書会も紹介された。金沢下ネタ軍団もそろそろ全国進出する時期であると切に感じた。

 今回の課題本『ギリシャ棺の秘密』はおもてなし作品代表といえるだろう。

 おもてなしと言えば、越前先生は参加者全員にサイン本を持参、県外からの参加者はお菓子をおみやげに。

 金沢側は……。

〈世話人:あの、越前先生には一応おみやげお渡ししましたけど……〉

 おもてなしの代表とも言える有名旅館、加賀屋があるのも地元。要するに金沢はおもてなしのメッカである。

 しかし、金沢下ネタ軍団におもてなしの概念はナッシング!

 下ネタがおもてなしじゃわ!

〈世話人:それに頼っているところもたしかに〉

 その下ネタさえ、作品の内容上、言えなかったのですが……。

〈世話人:言ってたよ〉

 サイン本、おみやげ、ありがとうございました!

 僕で良ければ体でお返しします……。

〈世話人:全国のみなさま、どうもすみません〉

 翻訳ミステリー金沢読書会 市川史朗/つぶやき:北田絵里子

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