◆よりハードに、よりディープに、よりシリアスに( ©川出正樹氏)

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 こんなかっこいいジジイになりたい! と、『もう年はとれない』の訳者あとがきに書いたのだが、主人公である食えない超後期高齢者の元刑事、バック・シャッツがこれほど多くの読者の皆様の共感を得るとは、正直思っていなかった。

 昨年の翻訳ミステリー大賞にノミネートされたときも、よく上位五作に入ってくれたワ、儲けものだワと思いながら、蒲田のコンベンション会場へと向かった。

 ところがいざ開票が始まってみると、意外や意外、『もう年はとれない』がぐいぐい票を伸ばし、ついには『秘密』(ケイト・モートン、青木純子訳、東京創元社)とデッドヒートを演じはじめたではないか。最初は「ビリでも雄々しく笑顔で!」と思っていたのが、「これはあわよくば……」と、思わず舌なめずりしてしまった。ほんとうに、演出効果を狙って開票順の操作があったのかと勘ぐれるほどに(むろん、それはない)、最後は一票ごとに会場で「オー」とどよめきが上がる接戦になったのだ。

 惜しくも二票差で、『もう年はとれない』は受賞を逃したが、ここまでやるとは思わなかったぜ、バック! ジジイ、たいしたもんだ!

 これは次も早く出さなくちゃ、ということで、二作目『もう過去はいらない』が今月29日にお目見えとなった。あらすじを東京創元社のサイトから引用すると……

 88歳のメンフィス署の元殺人課刑事バック・シャッツ。歩行器を手放せない日常にいらだちを募らせる彼のもとを、因縁浅からぬ銀行強盗イライジャが訪ねてきた。何者かに命を狙われていて、助けてほしいという。やつは確実になにかをたくらんでいる。それはなんだ。88歳の伝説の名刑事vs.78歳の史上最強の大泥棒。『もう年はとれない』を超える、最高に格好いいヒーローの活躍!

http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488122065

 というわけで、“『もう年はとれない』を超える”というところにご注目を。タイトルに、川出正樹氏のすばらしい解説の文章を引用させていただいたが、今回はミステリとして前作より出来がいいだけではなく、主人公の過去、ユダヤ人としての出自がさらに深く掘りさげられている。このバックグラウンドがあらすじに巧妙にからんでくるあたり、お楽しみいただけるとうれしい。

 バックは前作の負傷によって介護施設に入居し、リハビリに励んでいるのだが、痛烈な皮肉は健在だし、じつは内緒でこっそりマグナムも持ちこんでいる。しっかり者の妻ローズ、ちょっと頼りないけれどITに強い孫テキーラも、もちろん登場する。

 そして、四十四年前の過去からふたたびバックの前にあらわれたユダヤ人の大泥棒、イライジャ。二人がくりひろげる丁々発止の闘いは、史上最高の老老対決間違いなしだ。

 シニア・ノワールのビートをさらにパワーアアップして奏でる本篇。また、バックのモデルについての感動的な著者あとがきも、どうぞお見逃しなく。

野口百合子 (のぐち ゆりこ)

 ようやく仕事が一段落し、5月に買ったパソコンをいまごろいじりはじめたのだが、バックほどではなくてもITに弱いので、悪戦苦闘中。次はC・J・ボックスのジョー・ピケット・シリーズの新刊が晩秋に出る予定。

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