10月1日(土)深夜、本がなければ生きてゆけない活字ジャンキーたちと、酒さえあればハッピーなロクでなしどもがオンラインで集い、アンディ・ウィアー『アルテミス』を肴に第4回深夜読書会が行われました。(告知文はこちら

『アルテミス』は『火星の 人』(映画『オデッセイ』の原作)、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』で知られるアンディ・ウィアーの長編第2作。月面都市アルテミスを舞台に、殺人事件に巻き込まれた主人公ジャズと仲間たちの奮闘を描いた近未来SFスリラー。

酒の勢いと深夜ならではの特殊なテンションでおよそ再現不能と思われた読書会当日の様子を、参加者の立葵さんが渾身のレポートにしてくれましたので、是非お読みください。

(深夜読書会共同世話人 加藤 篁)

___________________________________

第4回深夜読書会、課題図書は『アルテミス』

『火星の人』と『プロジェクト・ヘイル・メアリー』に挟まれて影薄い子ですよね。でもって大体皆さん「あれはあんまり面白くなかった」って言うんですよね。

実際、次の深夜読書会は『アルテミス』でやりましょうという話が出たときも「アルテミスいいですよね!」というアツい反応は皆無(…だったと思う)

自分も正直、イマイチだったな〜という印象だけがうっすらと残ってたんですが。皆が揃ってビミョーな反応だと逆にこう、自分はこの子の良さを見出して皆様にアピールするぞ! みたいな心境になり、良かった探しをするつもりで再読(どういう目線なんだ) そしたら…

え、面白いじゃん。

いや、良かった探しとか僭越なこと考えなくても全然面白かった。

でもっていざ、読書会に臨んだら皆さん「(再読したら)面白かった」って言うじゃないですか。

結論:『アルテミス』は再読すると面白い。

手厳しい意見が集中する展開になるのでは…と予想していたのに、蓋を開けたら「思ってたより/記憶にあるより全然面白かった」と、至って肯定的な雰囲気。

結局のところ、『火星の人』の第2作に何を求めてたか、というのが問題で、私も含めた結構な数の人がそこで「コレジャナイ」になっちゃったけど、こういう話だと分かって読めばアクションSF+ケイパーものとしてめっちゃ面白い、ということだと思うんですよね。低重力下でのアクションや、溶接タイムアタックといった科学面の描写の強度は流石で、映画にしたら映えそうという声多数。主人公=ジャズのキャラクターに関しても、カネにがめつい理由を始め、行動原理が分かった上で読むと大分印象が変わるので、やはり再読でイメージが好転しやすい模様。

ただ、『火星の人』の芋畑や、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』のヘイルメアリー号に比べると、『アルテミス』の月面都市は若干、イメージ喚起力に欠けるという指摘もあり、ゆで卵愛好者からは、「街」の魅力に乏しい、せっかく酒場があるのにそこから人間関係が広がらないなんてそりゃ無いだろう! という、いかにも深夜の飲み会(兼、読書会)らしい慨嘆が。

確かに月面都市《アルテミス》自体、大元がケニアによる建設で元首もアフリカ系女性、そこへ世界各国の様々な人種が集まって来ている…という設定なのに、そういった背景をほとんど感じさせない、まあ、ぶっちゃけて言えば「ほぼアメリカじゃね?」状態。

「ウィアーは月面都市を移民国家アメリカの縮図として書きたかったのでは?」「いや…でもそれ、SFでやる必要あります?」ってなやりとりから、じゃあそもそもSFとは…みたいな方向にとりとめなく話が転がっていくのも、酒を片手の深夜読書会ならではの醍醐味です。

ツッコミどころの多い作品の方が読書会は盛り上がる、というのが定説(?)のようですが、よく出来たエンタメでありながら、議論したくなるような「隙」も多いこの作品、非常に読書会向きだったのではないでしょうか。

『アルテミス』は2回目からが面白い。

ということで、読んだけどあんまり面白くなかったよ、という方も、いま一度読み返してみて頂きたいです。

立葵(タチアオイ)
ミステリからSFまで、翻訳エンタメ雑食系のDTP職人。ブロマンスとシスターフッドが好物。Twitterアカウントは@tachiaoi07