◆TVを消して本を読め! 超シリアスな対テロ捜査もの『エネミー・ウィズン』とお気楽極楽なアクションもの『ウィスキー・キャヴァリエ』という、対照的なスパイスリラー2作◆

 
 さて、最近はアメリカも秋だけじゃなくて春に新番組を投入することも増えてきています。そこで今回からしばらくは、そんな今年の春新番をまとめてご紹介したいと思います。……問題は、そのうち何本が生き残って秋から第2シーズンを迎えられるかなのですが(苦笑)。

 というわけで、まず今回は、どシリアスとお気楽コメディという対照的なスパイものを2本ご紹介します。

◆『エネミー・ウイズィン』予告編◆

 シリアスすぎて、逆に「そんなことないやろ」と引き笑いしそうになっちゃうのが『エネミー・ウイズィン(内部の敵)』。主人公のエリカ・シェパードはCIAの副長官だったのですが、謎のロシア人テロリスト、ミハイル・タールに「協力しないとお前の娘を殺す」と脅され、タールの行動を阻止した捜査員たちの情報を漏洩、タールによって彼らを殺されてしまいます。その結果、エリカはFBI捜査官のウィル・キートンに逮捕され国家反逆罪で終身刑となり、警戒厳重な刑務所に入れられてしまいます。

 ところが、それから3年後、再びタールが大規模なテロを再開、FBIはタールのことを最も知る人物としてエリカに協力を求めます。かくして、キートン以下、彼女を敵視する人々に囲まれながら、エリカはタールを追い始めるのですが、FBI内にはすでにタールに内通する裏切り者が存在していたのです……。

 というわけで、右も左も敵だらけ。しかもどこに裏切り者がいるかもわからないという、悪夢のような状況の中、主人公が必死にもがき続けるという、心を病んだ人の被害妄想の塊みたいな非現実感溢れるスリラーになっています。敵であるタールのバックグラウンドが全然わからなくて、なんのためのテロなのか、なんでそんなに協力者が多いのかが全然見えてこないところも、非現実感を一層増しています。ちょっとやりすぎな気が~。

 主人公のエリカを演じているのは『デクスター』『リミットレス』でテレビドラマファンにはおなじみのジェニファー・カーペンター。美人というにはキツすぎる容姿が、ギリギリまで追い込まれている主人公の雰囲気にぴったりと合っています。

 でも、この調子でどこまで続ける気なのかなあ? いつまでも謎のテロリスト追いかけ続けてるわけにはいかないと思うんだけど。

◆『ウィスキー・キャヴァリエ』予告編◆

一方、お気楽極楽な一話完結型アクションコメディなのが『ウィスキー・キャヴァリエ』です。こちらの主人公はFBI捜査官のウィル・チェイス。超有能かつハンサムなウィルですが、ロマンチストで繊細すぎるのが玉に瑕。付き合っていた女性にふられると、何日も部屋にこもって泣き暮らすというダメっぷり。そんな彼がCIAとの合同チームに参加することとなるものの、相棒になったCIAの女性捜査官フランキー・トローブリッジが、彼とは正反対のハードボイルドな任務遂行マシーンだったもので、事あるごとにぶつかりあってしまうことに。果たして合同チームの行方やいかに?

 あらすじ読むだけでも、おふざけに溢れてるところが想像できると思うのですがいかがでしょう?
 軟派な主人公が硬派なヒロインに振り回されるという男女逆転ラブコメディを、スパイものでやろうとしてるんですよね。問題は今どきこんなお気楽な設定の一話完結ドラマを毎週きちんと見てくれるお客がどれくらいいるかではないかと。『エネミー・ウイズィン』とは正反対の意味で、シリーズ継続はけっこう難しい気がしてしまっております。

 おもしろいのは、どちらもしっかりしてるのは女性キャラの方だということ。主人公が女性の『エネミー・ウィズン』はもちろん、主役は男性のほうの『ウィスキー・キャヴァリエ』も真面目で有能なのはどう見ても相棒として組むことになる女性キャラ、フランキー(演じるは『ウォーキング・デッド』のマギー役で人気が出たローレン・コーハン!)の方なんですね。これも時代の流れというものなのかも。


 さて、シリアスなスパイスリラーといえば、やはり何と言っても今もなお現役で優れた作品を書き続けている巨匠ジョン・ル・カレの作品が念頭に浮かんでしまいます。特に近作の『スパイたちの遺産』は、かの名作『寒い国から帰ってきたスパイ』そして『ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ』の続編にして、冷戦時代から続くスパイ戦の招いてきた悲劇の総決算とでもいうべき衝撃作。かつてのファンはもちろん、ル・カレ初心者もこの作品から始めて過去作へと遡っていってもいいかも。おススメです。


 一方、お気楽スパイものの最近の収穫といえばジャナ・デリオン『ワニの町へ来たスパイ』から始まる〈フォーチュン〉シリーズでしょう。厳密にはスパイものじゃなくてコージイ・ミステリなんですが。凄腕の秘密工作員フォーチュンは、派手に暴れすぎて賞金首になってしまい、世界中の暗殺者から狙われてしまうことに。状況を重く見た上司は、正体を隠してアメリカ南部の田舎町に潜伏するよう彼女に命じるのですが、何も起こるはずもない小さな町でフォーチュンは次から次へと犯罪に遭遇、自力で解決しなくてはいけなくなる羽目になるという、ご機嫌などたばたコメディです。

堺 三保(さかい みつやす)
  1963年大阪生まれ。『SFマガジン』、『映画秘宝』等に記事書いてます。また、訳書近刊にコミックス『インフィニティ・ガントレット』(小学館集英社プロダクション)。設定考証を担当したテレビアニメ『ダーリン・イン・ザ・フランクス』が2018年1月から放送中。同じく設定部分を担当したアニメ映画『ニンジャバットマン』も2018年6月15日(金)劇場公開。
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