◆TVを消して本を読め! 第66回 女子高生探偵が大人になって帰ってきたぞ!『ヴェロニカ・マーズ』再登場◆

 近年、かつての大人気ドラマの続編が増えてます。いや、リメイクなら、アメリカでは大昔から繰り返されてきたことで、今も『マグナムP.I.』とか『ロズウェル,テキサス』とか『チャームド』とかバンバン作られてたりするんですけど、それらとは別に、往年の名作の「続編」が作られるようになってるというのが、ちょっとおもしろいのです。
 たとえばネットフリックスは往年のファミリードラマ、『ギルモア・ガールズ』『フルハウス』の続編(『フラーハウス』)を製作して、オリジナル版と一緒に配信しています。そうすることで話題を作り、新作旧作双方の視聴者数を獲得しようという作戦なわけですね。
 他にも地上波では、『刑事ナッシュ・ブリッジス』の続編(主人公、もう引退する歳なのでは?)とか、『ビバリーヒルズ高校白書』の番外編(直接の続編というわけではなく、旧作の主演俳優たちが今どんな生活をしているかを描くフェイクドキュメンタリーというか嘘リアリティTV)とか、どんどん企画されたり放送されたりしています。
 これらの作品のミソは、なんといっても「オリジナル版の俳優が当時と同じ役柄で登場する」ところ。かつては初々しかった主人公たちが、年齢を重ねて大人の風格を身につけて、もしくは、その歳なりの悩みを抱えて再登場する姿を、視聴者は久しぶりにかつての友人の姿を見るかのように楽しむ、という趣向なのです。

 今回ご紹介するのは、まさにそんな楽しみの詰まった一本、『ヴェロニカ・マーズ』です。
 もともとの『ヴェロニカ・マーズ』は2004年から2007年まで放送されていたドラマで、主人公のヴェロニカは女子高校生ながら父の探偵事務所を手伝ったり、クラスメイトたちに頼まれたりして、さまざまな事件を解決していくというストーリーでした。
 舞台となるのは西海岸の郊外にあるという設定の架空の町、ネプチューン。風光明媚で一見平和に見えるこの町と、そこに住む若者たちのあいだに潜む、リアルで深刻な犯罪を描いた、シリアスな青春ドラマであり正統派のハードボイルドミステリになっているところが高い評価につながったものの、広く人気を集めるには至らず、三シーズン目、近くの大学に進学して大学生探偵として一年目を過ごしたところで、惜しまれつつ終了してしまいました。たぶん、真面目すぎたのが高評価と不人気の両方の原因だったのではないかと思います。なにせ、主人公のヴェロニカが、頭の回転は悪くないけどそれ以外は本当に普通の学生で、荒っぽいことは全く苦手で拳銃も持たないため、アクションシーンはほとんどない、という方向にリアリティを追求しちゃったあたりも、好き嫌いが分かれた理由かも。

■『ヴェロニカ・マーズ』第1シーズン予告編

 ところが2014年、クリエイターのロブ・トーマス(最近はアメコミ原作のゾンビ+ミステリものドラマ『iゾンビ』をヒットさせてたりするミステリが得意なライター)とヴェロニカ役のクリスティン・ベル(現在は死後の世界をコミカルに描くシットコム『グッド・プレイス』が好評放送中)が、なんとクラウドファンディングでファンから直接資金を集めて(しかも調達額は当時の最高額)続編映画を製作、話題を呼んだのでした。
 こちらの続編は、ヴェロニカはハーバード大のロースクールを優秀な成績で卒業、ニューヨークの大手法律事務所に就職が決まりかけていたのに、故郷の町ネプチューンで起こった事件を解決するため、町に帰って再び探偵として活躍する、というストーリーでした。

■『ヴェロニカ・マーズ:ザ・ムービー』予告編

 そして今年、地上波(CW)から配信(hulu)に移って放送されたミニシリーズでは、前回の事件から5年が経ち、ヴェロニカも今や30歳手前、押しも押されもしない一人前の私立探偵として、ネプチューンの町で暮らしています。そんなある夏、突如起こった爆弾騒ぎから、夏休みに保養地であるネプチューンにやってくる若者たちを巡る凶悪な殺人事件に巻き込まれてしまい、というストーリーです。かつては自分が若者として事件の渦中にいたヴェロニカが、今回は大人の視点から若者たちの事件を調べるというのが、新趣向となっています。
 もはや少女探偵の面影はなくなったかわり、すっかりシビアな展開が似合う大人の女性になったヴェロニカが、ワイズクラック(軽口)を叩きながら難事件に挑む姿は、堂々たるハードボイルドものの主人公らしくてかっこいいのでした。
 今回のシリーズ、アメリカではとても好評だったみたいで、さらなる続編を期待する声も多いようです。日本でもそのうちhuluで配信されたりしないかなあ。

■『ヴェロニカ・マーズ』新シーズン予告編



 さて、女探偵といえば、大昔のハニー・ウェスト(G・G・フィックリング作)やメイヴィス・セドリッツ(カーター・ブラウン作)といったセクシーキャラから、生真面目でコツコツがんばるタイプのコーデリア・グレイ(P・D・ジェイムズ作)など、いろんなキャラがいますが、現代的な女性私立探偵像を80年代に確立したといえば、なんといってもサラ・パレツキーによるV・I・ウォーショースキーと、スー・グラフトンによるキンジー・ミルホーンでしょう。
 今でこそ女性探偵ものは珍しくもないですが、彼女たちが登場した当時は「女が主人公の私立探偵ものなんて、ハードボイルドとは認めない」なんて論調で否定的なこと言ってた人たちもけっこういたりして、隔世の感を禁じえません。そんな状況下、女性私立探偵ものというサブジャンルが当たり前のものへと成長するようになったのは、この2シリーズが次々に書き継がれながら高い評価を勝ち得てきたからでしょう。残念ながら作者がお亡くなりになったためミルホーンものの新作はもう読めませんが、ウォーショースキーものは今も新作が書かれています。


 あ、そうそう。少女探偵ものの嚆矢と言えばなんといっても、キャロリン・キーン名義で複数の作家によって書き継がれてきた《ナンシー・ドルー》シリーズがあります。このシリーズは1930年の初登場から今に至るまで、時代に合わせて主人公像を変化させながらも新作が発表され続け、映画化やテレビドラマ化も繰り返されています(今年の春、久しぶりに映画化され、さらに、それとは別にテレビドラマも秋からスタートするとか)。少女探偵ナンシー・ドルーは、日本で言えば江戸川乱歩の《少年探偵団》における小林少年のようなキャラクターであり、アメリカではとても有名な存在なのです。日本でも何冊か翻訳が出ていますが、本邦ではあまりメジャーではないですよね。
 おそらく、今回ご紹介したヴェロニカ・マーズは、スタート時はかなりナンシー・ドルーを意識してて、その現代的なリアル版を目指してたんじゃないかなあ、とも思えるのですよ。

堺 三保(さかい みつやす)
  1963年大阪生まれ。『SFマガジン』、『映画秘宝』等に記事書いてます。また、訳書近刊にコミックス『インフィニティ・ガントレット』(小学館集英社プロダクション)。設定考証を担当したテレビアニメ『ダーリン・イン・ザ・フランクス』が2018年1月から放送中。同じく設定部分を担当したアニメ映画『ニンジャバットマン』も2018年6月15日(金)劇場公開。
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