◆第59回 どーするどーなる?! 3年目を迎えた『リーサル・ウェポン』◆

 一昨年、好評のうちにスタートしたテレビドラマ版『リーサル・ウェポン』が、大混乱に陥ってしまっています。今回はそのあたりの事情をまとめてみました。
 


 元々この作品は、80年代の人気アクション映画シリーズをテレビドラマとしてリメイクしたものなのは、アクションもののファンなら皆さんご存じでしょう。映画ではメル・ギブスンが演じたベトナム帰りの元狙撃兵の凄腕刑事マーティン・リッグスをクレイン・クロフォード(時代が現代なので、ベトナム帰りが中東帰りに設定変更)が、ダニー・グローバーが演じたロサンゼルス市警のベテラン刑事ロジャー・マータフをデイモン・ウェイアンズが演じるのに加えて、映画では端役だった刑事課長や精神科医など、刑事部屋のメンバーをレギュラーキャラとして、チームものっぽさを加味したところが、テレビドラマらしい感じになっていました。

 映画ほどど派手なアクションシーンを毎回行うことはムリとしても、チームものらしい楽しい雰囲気もあって、第1シーズンは好評のうちに終了、第2シーズンへと延長することが決まったのですが、そこからトラブルが表面化し始めます。

 一番の問題となったのは、主役であるクロフォードとウェイアンズの不仲。そのせいもあってか、第2シーズン後半に向かって、二人がそれぞれ単独行動する場面がだんだん増えていくことにも。
 そして、その不仲の最大の原因とされたのが、クロフォードの撮影現場での素行の悪さ。これにはウェイアンズだけでなく他のスタッフたちからも不満が噴出、ついに主役にも関わらずクロフォードが番組から降板させられることで決着したのでした。しかも、クロフォード扮するリッグスが死亡するという展開で。
 
 かくして、一方の主役不在で始まった第3シーズンは、リッグスに代わる新たな「リーサル・ウェポン」として、やはり中東帰りの元兵士(しかもCIAの特殊部隊勤務)ウェズリー・コールが参加することとなりました。いや、ほとんどキャラ的にはリッグスと変わらないんですけどね。リッグスが、妻の死をきっかけに自殺願望にとりつかれてしまったキャラなのに対して、コールは中東での作戦行動中、現地で親しくなった少年が巻き込まれて死亡、自責の念に駆られている、という設定になっています(ついでに書くと、コールは奥さんに離婚されていて、一人娘に会いたくて、妻のいるロサンゼルスにやってきたという設定です)。
 
 というわけで、一方の主役が交代してしまったものの、全体的な雰囲気は変わらないまま、第3シーズンはなんとかスタートしたわけですが、始まって1ヶ月もしないうちに、再度、衝撃的なニュースが発表されます。
 なんと今度は、もう一人の主役であるマータフを演じるウェイアンズが、「家庭を大事にしたい」という理由で、製作が決定していた第3シーズン第13話をもって、シリーズを降板すると言い出したのです。
 ウェイアンズは、テレビシリーズの撮影は彼が考えていた以上に過酷で、全然家に帰ることができないのに、ドラマの中では家族を大事にしているキャラを演じているのが苦痛だし、何よりももう歳なので孫たちとの時間を大切にしたいから、と降板理由を説明しています。
 
 元々このドラマは、リッグスとマータフという、「若手とベテラン」、「元兵士と警官一筋の刑事」、「ルール無視とルール遵守」、「白人と黒人」といったいろんなレベルで対照的なキャラ二人が、息の合ったコンビとなって大活躍するところが最大の魅力だったわけで、その二人がいなくなっては、もはやまったく意味がないような気がします。
 
 ですが、テレビ局と製作側はまだまだあきらめていないようで、とりあえず追加で2話製作することを発表、ウェイアンズも出演することを了承しました。製作側としては、この追加2話のあいだで、マータフの物語をきれいに締めくくると共に、ドラマの第4シーズン継続への道を作りたいのでしょう。もしくは、最悪、ドラマがそこで終わってしまっても、最終回らしいきれいなエンディングを作ろうということかも。
 いずれにしても、第3シーズン最終話となる第15話、見たいような見たくないような、複雑な気分であります。

■『リーサル・ウェポン』第3シーズン予告編

 
 さて、ロサンゼルス市警の刑事が主人公のミステリといえば、なんといっても『刑事コロンボ』が有名ですよね。元々はテレビドラマなのですが、日本ではノベライズが独自に作られていて、けっこう意外な人が書いていたりして、ミステリファンとしては見逃せないものとなっています。
 とはいえ、コロンボは倒叙推理ものなので『リーサル・ウェポン』みたいなアクションものとは路線がかなり違いますよね。リアルな刑事ものの現代ミステリということでは、マイクル・コナリー『ハリー・ボッシュ』シリーズ、ジョナサン・ケラーマンの『アレックス・デラウェア』シリーズ、フェイ・ケラーマン『ピーター・デッカー&リナ・ラザラス』シリーズあたりが代表的な作品でしょうか。
 いずれのシリーズも、ロサンゼルスという街の様子が活写されていて、ミステリとしてだけでなく、都市小説としての側面もあるところが特徴のような気がします。
 個人的にはこの中でも『ピーター・デッカー&リナ・ラザラス』シリーズが、アメリカにおけるユダヤ教徒の生活というマイノリティの視点が盛り込まれているのと、夫婦や家族の機微みたいなことにも描写が大きく割かれているのが、とても好ましくて好きなシリーズだったりします。
 ちなみに、コナリーは私立探偵『エルヴィス・コール』シリーズを書いているロバート・クレイスと仲が良いらしく、互いの作品で、ハリーとエルヴィスがすれ違うシーンを書いてたりしてるんですよね。
 

堺 三保(さかい みつやす)
  1963年大阪生まれ。『SFマガジン』、『映画秘宝』等に記事書いてます。また、訳書近刊にコミックス『インフィニティ・ガントレット』(小学館集英社プロダクション)。設定考証を担当したテレビアニメ『ダーリン・イン・ザ・フランクス』が2018年1月から放送中。同じく設定部分を担当したアニメ映画『ニンジャバットマン』も2018年6月15日(金)劇場公開。
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