◆TVを消して本を読め! 第65回『ディス・イズ・アス』のヒットに続け。多人数家庭劇『ア・ミリオン・リトル・シングス』◆

 翻訳ミステリー大賞のページなので当たり前ではあるのですが、いつもはミステリドラマをご紹介している本連載ですが、今回はミステリでもホラーでも(もちろんSFやファンタジーでも)ない「普通の」ドラマを紹介したいと思います。

■『ディス・イズ・アス』第3シーズン予告編

 というのも、すでに日本でもNHKが放送を開始して一部で話題となっているドラマ『ディス・イズ・アス』が、アメリカでは大人気となっていて先日第3シーズンが終わったばかりなのに、すでに第6シーズンまでの製作が決定しており、それに引っぱられるように同じようなテイストのドラマが続々と作られているからです。

 この「同じようなテイスト」というのはずばり「現代を舞台に、複数の家族の抱える、いかにも今どきらしい問題や、彼らの確執と和解を描いていく」という、複数主人公によるアンサンブルドラマ的作りです。
 日本で言えば『渡る世間は鬼ばかり』に近いのかもしれません。が、大きな違いが一つ。どの作品も老人や子供たちはほとんど出てこないし、メインキャラたちは中年と言っても30代くらいという「若者と中年の狭間にいる単一世代」の物語だということでしょう。
 昔からアメリカではこの世代を描いたドラマで人気の高い作品がいくつもあるのですが、2010年代も終わりかけた今になって、再びそのブームがやってきているのです。

 ちなみに『ディス・イズ・アス』は、それぞれに問題を抱える三人の兄弟(男女の兄妹と養子の男性)と、その両親の物語を、時系列をジャンプしながら交互に描いていくというもので、現代パートには父親が登場しないため「父はどうなったのか?」が物語を引っぱる大きな謎になっています。
 もちろん、その謎はドラマの要素の一つでしかなく、このお話の一番の肝は、毎回油断しているとついウルッと泣かされてしまう劇的な展開で、様々な人々が愛情によって結ばれている様子や、それを表すためにここぞというところで飛び出す名台詞の数々だったりします。上手いのは、メインキャラたちの家族愛だけでなく、周囲の人々も含んだ善意の輪が示されること。そして、それでも悲劇は避け得ないけれど、人はそれを乗り越えていくのだ、という確信が示されていくことでしょう。

 というわけで、去年の9月からのシーズンでは、『ア・ミリオン・リトル・シングス(無数の小さな事柄)』、『ザ・ヴィレッジ』、『ザ・レッドライン』という「多人数家族ドラマ」の放送が始まりました。

■『ア・ミリオン・リトル・シングス』予告編

ア・ミリオン・リトル・シングス』は、ボストンに住む大学時代からの親友四人組とその家族の物語。メンバーの一人が突然謎の自殺を遂げたところから、残された人々が自分の人生を見つめ直していく様子が描かれていきます。

■『ザ・ヴィレッジ』予告編

ザ・ヴィレッジ』の舞台はニューヨーク。マンハッタン島の真ん中にある小さなおんぼろアパートメント、通称「ザ・ヴィレッジ」に住む様々な人種と職業の人たちが、そこに小さなコミュニティを形成し、互いに助け合って生きていく様子が描かれます。

■『ザ・レッド・ライン』予告編

 そして『ザ・レッドライン』はシカゴが舞台。運悪くコンビニ強盗に出くわした若い黒人医師が、白人警官の誤射で死んでしまうところから物語が始まります。被害者の家族、その周辺、そして誤射してしまった警官と、警察組織。事件の波紋が様々な人々の人生を狂わせてしまうものの、誰もがそこからやり直そうとする姿を描いています。

 どの作品にも共通するのは、最初に書いた「メインキャラが同世代(30代くらい)」ということと、「舞台は大都市」ということでしょう。様々な人種や職業の人々が隣り合って生きている大都会ならではの問題が、物語の主題となっているわけです。

 そこでミステリファン向けにオススメしたいのは、これらのドラマが現在のアメリカ都市部の様子やそこに住む人々の暮らしを、(どこまでリアルかはわかりませんが)克明に描写しているところです。「おお、今こういうのが流行ってるのか?」とか「最近のアメリカ人はこういうもの食べてるの?」という、生活様式の描写が、ミステリドラマよりも濃厚に描かれているというか、逆にミステリドラマでは「常識」としてさらっと流されがちなことがよくわかって、とてもおもしろいと筆者は思っています。

 もっとも、残念ながらこの秋からの新シーズンでの継続が決まったのは『ア・ミリオン・リトル・シングス』だけなのですが、すでにこの秋からは似たテイストの新番組がさらにいくつもスタンバイしているようです。
 皆さんも、たまにはこういう「犯罪の出てこない」ドラマを楽しんでみるのはいかがでしょうか?

 さて、アメリカの「普通」小説といえば、一昔前ならたとえばジョン・アーヴィングあたりなんでしょうか。『ガープの世界』とか『ホテル・ニューハンプシャー』とか。ちょっと登場人物たちが風変わりすぎますかね?
 今だと、『私の名前はルーシー・バートン』エリザベス・ストラウトや、『最初の悪い男』ミランダ・ジュライ『ガラスの城の約束』ジャネット・ウォールズとかでしょうか。機能不全に陥った人間関係が描かれていることが多いように感じるのですが、それが現代的なリアリティに通じているようにも思えます。
 皆さんのお好きな現代作家は誰ですか?

堺 三保(さかい みつやす)
  1963年大阪生まれ。『SFマガジン』、『映画秘宝』等に記事書いてます。また、訳書近刊にコミックス『インフィニティ・ガントレット』(小学館集英社プロダクション)。設定考証を担当したテレビアニメ『ダーリン・イン・ザ・フランクス』が2018年1月から放送中。同じく設定部分を担当したアニメ映画『ニンジャバットマン』も2018年6月15日(金)劇場公開。
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