◆TVを消して本を読め! 第64回「対照的な法廷もの、弁護士が活躍する『プルーブン・イノセント』と検察ががんばる『ザ・フィックス』◆

今回は法廷ものの新番組を二作まとめてご紹介します。

 まず、『プルーブン・イノセント(無罪証明)』は、無実の罪で投獄された経験を持つ弁護士が、同じ境遇の容疑者たちのために戦うという作品。毎回、いかに検察の主張をくつがえし、その裏に隠れた真相を暴いていくかがストーリーのポイントとなっている、ミステリ度の高い法廷ものです。
 また、シリーズ全体を通じてのドラマとして、主人公の無罪が確定した殺人事件の真犯人がまだ判明していないため、主人公たちが今もそれを探している、という展開も設けられていて、そちらの先行きも気になるようにできています。
■『プルーブン・イノセント』予告編■

 一方、『ザ・フィックス(修正)』は、『プルーブン・イノセント』とは、主人公の立ち位置も物語の構成も正反対なのが特徴です。こちらの主人公は、かつて担当した事件で容疑者を有罪にできず、心に傷を抱いて検察官を辞めたという過去を持つ女性。ところが、当時の容疑者がまたも似たような状況で逮捕され、検事局から要請を受け、今度こそ証拠を固めてこの容疑者に罪を償わせようと奮闘するという、連続ドラマ仕立てになっています。
 ちなみに、この容疑者、黒人の有名人で、殺された奥さんは白人……となると、アメリカ人なら誰もが思い浮かべるのは、元アメフト選手で俳優のO・J・シンプソンが妻を殺害した容疑で逮捕されながらも、証拠不十分で無罪となった裁判のことでしょう。どう見てもあの事件をモデルにしているあたり、ちょっと趣味が悪い気もするのですが、はたして主人公はいかなる真相を突き止めることになるのかが気になります。
■『ザ・フィックス』予告編■

 さて、前回も書いたのですが、どちらの作品も強い女性が主人公だというところに、現代性を感じます。もはやそれに対してドラマ内で「女のくせに」みたいなことを言う人が誰も出てこないあたりも、今やアメリカのテレビドラマは女性の時代なんだなあ、と強く思うところであります。二昔くらい前は、「女性が主人公」ということが何か特別なことだったのにねえ。いや、すごく良いことですよね、これって。

 ところで、法廷ものミステリといえば、なんといってもE・S・ガードナー《弁護士ペリー・メイスン》シリーズを思い浮かべる人は多いでしょう。毎回、無実の罪で起訴された被告を守り、真犯人を突き止めて逆転無罪を勝ち取る姿は、まさに名探偵そのもの。過去に二度、テレビシリーズ化されていて、今もまたリブート企画が進行中とか。
 もっとも、ペリー・メイスンの活躍はあまりにも現実の弁護士の仕事からはかけ離れています。現代の法廷ものは、元弁護士が書いたものが多く、リアルな法廷の描写と、フィクションとしての謎とが融合しているようなスタイルが一般的となっています。また、扱う事件も、殺人のような刑事事件はもちろん民事事件まで含むバラエティ豊かなものを扱うようになってきているのも、現代の法廷ものの特徴です。
 その先駆けとなったのが、スコット・トゥロー『推定無罪』や、ジョン・グリシャム『評決のとき』『法律事務所』といった作品群でしょう。いずれも、作者が元弁護士ということで、専門知識を縦横に駆使し、一筋縄ではいかない複雑な法曹界の姿を私たちに教えてくれます。
 最近だとフェルディナント・フォン・シーラッハアンドレアス・フェーアのように法廷ものを書くドイツ作家も紹介されていたりして、このジャンルはいよいよ興隆していきそうですね。

堺 三保(さかい みつやす)
  1963年大阪生まれ。『SFマガジン』、『映画秘宝』等に記事書いてます。また、訳書近刊にコミックス『インフィニティ・ガントレット』(小学館集英社プロダクション)。設定考証を担当したテレビアニメ『ダーリン・イン・ザ・フランクス』が2018年1月から放送中。同じく設定部分を担当したアニメ映画『ニンジャバットマン』も2018年6月15日(金)劇場公開。
・フェイスブック http://www.facebook.com/m.sakai1
・ツイッター http://twitter.com/Sakai_Sampo
・ちょくちょく出演させてもらってるWOWOWのニコ生番組は、以下のリンクから。
 WOWOW動画(堺三保で検索) http://st.wowow.co.jp/search/?q=%E5%A0%BA%E4%B8%89%E4%BF%9D



【毎月更新】堺三保の最新TVドラマ・映画事情【USA】バックナンバー