◆第58回 ベテランプロデューサーが放つ超シリアスな犯罪捜査もの『FBI』◆

 アメリカテレビ界に、ディック・ウルフという御年71歳の大物プロデューサーがいます。1980年代後半に『ヒルストリート・ブルース』『マイアミ・バイス』で脚本家としてデビューし、1990年代から2000年代にかけて、多数のスピンオフ番組から成る捜査&裁判ドラマ《ロー&オーダー》シリーズで一世を風靡(しかもスピンオフの数本は今も継続中)、2010年代に入ってからも、シカゴを舞台に警察、消防、病院などに勤めるプロたちの活躍をそれぞれ別の番組で描いていくという《シカゴ》シリーズで人気を博しているという、怪物プロデューサーです。
 そのウルフが、《シカゴ》シリーズ3本の製作を続けるかたわら、新たに手がけたのが『FBI』です。これはFBIニューヨーク支局の捜査官たちを主人公とした犯罪捜査もので、現代における犯罪捜査をリアルに描いていくというのがウリとなっています。
 扱う事件も現代的で、1話目が白人至上主義の人種差別主義者による爆弾テロ、2話目がISISによる毒薬テロと、まさにFBI向きの凶悪犯罪が描かれています。
 主人公である二人組の捜査官たちが、片や白人女性、片やアラブ系男性(もちろんイスラム教徒)というところも、実に現代的。ただし、2話目まではあくまでも捜査を描くのが話のメインで、二人の個人的なバックグラウンドはほとんど描かれていないあたり、犯罪捜査ドラマの極北という感じのストイックな作りになっています。
 捜査官たちのプライベートについての人間ドラマなんかより、ダイナミックでスリリングな事件捜査の模様を堪能したいという、ハードコアな警察マニアの人向きなのかも。いや、それほどのマニアじゃなくても、毎回冒頭からラストまで、緊張感がずっと途切れないテンションの高さはなかなかの見もので、けっこう楽しめると思います。
 
●『FBI』第1話予告編

 
●FBI (CBS) Trailer HD – Missy Peregrym, Jeremy Sisto FBI series

 
 さて、警察の捜査をリアルに描いたミステリ小説の嚆矢といえば、何と言ってもエド・マクベイン《87分署》シリーズでしょう。1956年の『警官嫌い』から2005年の『最後の旋律』まで全作が日本でも翻訳刊行されている、警察小説の金字塔です。長いシリーズの間に、ありとあらゆる警察もののパターンが展開されていて、警察小説大全のようになっているあたりも、今読み返すと感慨深いものがあります。
 また、科学捜査を緻密に描いて現代的な名探偵ものを生み出したのが、ジェフリー・ディーヴァー《リンカーン・ライム》シリーズです。毎回必ず終盤に起こるどんでん返しは、もはやパターンと化しているのに、それでもやっぱりおもしろく読ませてしまう、ストーリーテリングの妙には唸らされてしまいます。
 FBIの捜査官が主人公の小説ということになると、いきなり冒険色が濃くなってしまうのですが、ネルソン・デミル《ジョン・コーリー》シリーズあたりが有名でしょうか。もちろん、(主役はもしかしたら殺人鬼レクター博士のほうかも知れませんが)トマス・ハリス『レッド・ドラゴン』『羊たちの沈黙』も忘れてはいけない気がします。
 ただ、FBIものは実はフィクションよりはノンフィクションがたくさん出ていてどれもおもしろいんですよね。犯罪プロファイリングものの『マインドハンター』『FBI心理分析官』、科学捜査の実態を描いた『証拠は語る』、初代長官の闇を探る『大統領たちが恐れた男』、FBIが創生期に関わった奇怪な事件を描いた『花殺し月の殺人』等々、どれもまさに「事実は小説よりも奇なり」を地で行くおもしろさです。
 

堺 三保(さかい みつやす)
  1963年大阪生まれ。『SFマガジン』、『映画秘宝』等に記事書いてます。また、訳書近刊にコミックス『インフィニティ・ガントレット』(小学館集英社プロダクション)。設定考証を担当したテレビアニメ『ダーリン・イン・ザ・フランクス』が2018年1月から放送中。同じく設定部分を担当したアニメ映画『ニンジャバットマン』も2018年6月15日(金)劇場公開。
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