アメリカのベストセラー・ランキング

9月29日付 The New York Times紙(ハードカバー・フィクション部門)

 

  1. 1. THE TESTAMENTS    New!

Margaret Atwood マーガレット・アトウッド

環境破壊などで極端な少子化が進んだ近未来、子を産むためだけに支配層に仕える“侍女”たちの世界を描いたベストセラー・ディストピア小説『侍女の物語』(ドラマ『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』原作)の続編。前作からさらに15年後の世界を、独裁国家ギレアデの内側と外側にいる3人の女性の視点から描く。2019年度ブッカー賞最終候補作。

 

  1. 2. THE INSTITUTE    New!

Stephen King スティーヴン・キング

侵入者に両親を殺され、真夜中に自宅から連れ去られた12歳の少年ルーク。目覚めると、きのうまで暮らした自分の部屋とそっくりだが窓のない部屋にいた。そこはある邪悪な目的をもった施設で、ルークのほかにも子どもたちが何人も集められていた。そしてその子たちに共通していたのは、全員がテレパシーやテレキネシスといった特殊能力をもっていることだった。

 

  1. 3. WHERE THE CRAWDADS SING    Down

Delia Owens デリア・オーエンズ

1950年代、ノースカロライナの田舎町。幼くして家族に捨てられた少女カイヤは、町の人々の偏見にさらされながら沼地に隠れ住んでいた。やがて、たくましさと繊細さを併せもつ美しい娘に成長し、ふたりの若者との交流によって心を開いていくが、町で殺人事件が発生し、疑いの目を向けられる。

 

  1. 4. KILLER INSTINCT    New!

James Patterson and Howard Roughan ジェイムズ・パタースン、ハワード・ローワン

異常心理が専門の大学教授で元CIAエージェントのディラン・ラインハートがニューヨーク市警のエリザベス(リジー)・ニーダム刑事とタッグを組んで、9/11後のニューヨークをねらう大規模テロに挑む。ドラマ『インスティンクト―異常犯罪捜査―』原作ベストセラー“Murder Games”(のちに“Instinct”に改題)続編。

 

  1. 5. THE ORACLE    Down

Jonathan Cahn ジョナサン・カーン

有名なメシアニック・ジュダイズムのラビである著者が、ヘブライ聖書のヨベル書の謎を、物語の形をとって解説する。七つの鍵を与えられた旅人が扉をひとつずつ開けていくと、現代の世界を揺るがすさまざまなできごとの背後に隠れた古代の秘密が、明らかになっていく。

 

  1. 6. THE GIRL WHO LIVED TWICE    Stay

David Lagercrantz ダヴィド・ラーゲルクランツ

故スティーグ・ラーソンのミレニアム3部作をダヴィド・ラーゲルクランツが書き継ぐミレニアム・シリーズの通算6作目。手足の指が欠損した小柄な男が死体で発見され、そのポケットからミカエルの電話番号のメモが見つかる。リスベットの協力を得て死んだ男の身元を探るうち、スウェーデン政府高官が過去に遭遇したエヴェレスト登山事故との関連が浮上する。

 

  1. 7. THE TITANIC SECRET    New!

Clive Cussler and Jack Du Brul クライブ・カッスラー、ジャック・ダブラル

私立探偵アイザック・ベル・シリーズ第11作。NUMA(国立海中海洋機関)のダーク・ピットが見つけた古い日記は、20世紀初頭に活躍した〈ヴァン・ドーン探偵社〉の探偵アイザック・ベルが記したものだった。1911年、ベルが調査していたコロラドの鉱山で起きた9人の不審な死の真相は、やがて北大西洋に沈んだタイタニック号の秘密につながっていく。

 

  1. 8. VENDETTA IN DEATH    Down

J.D. Robb  J・D・ロブ

イヴ&ローク・シリーズ第49作。裕福な実業家マッケンロイが、レディ・ジャスティスと称する復讐者によって惨殺される。マッケンロイには女性たちを貶める裏の顔があった。同様の事件がたてつづけに起こり、犯人とおぼしき人物を絞りこんだイヴとピーボディは決定的な証拠をつかもうとする。

 

  1. 9. A BETTER MAN    Down

Louise Penny ルイーズ・ペニー

ガマシュ警部シリーズ第15作。ケベック州警察殺人課に復帰したガマシュのもとに、妊娠中の娘が失踪したという男が相談に訪れ、暴力亭主が娘を殺したのではないかと訴える。一方スリーパインズ村では、近づく嵐で川があふれ洪水になる恐れがあると、土嚢を積んだり避難準備をしたりと住人たちは大騒ぎ。その川底から女の死体が発見され――

 

  1. 10. THE SECRETS WE KEPT    Down

Lara Prescott ララ・プレスコット

冷戦のさなか、CIAのタイピストだったふたりの女性に前代未聞の任務が課せられた――スパイとなり、ソ連で出版が禁じられたパステルナークの小説『ドクトル・ジバゴ』を密かに持ち出して、この傑作を世界にひろめるというものだった。

 

【まとめ】

ビッグネームの新作が4作トップテンリストに登場、順位に動きの見られた週でした。1位のアトウッドは数々の文学賞を受賞している現代カナダを代表する作家。“THE TESTAMENTS”は『侍女の物語』から30年以上を経て書かれた続編として注目されています。邦訳作品も多数あり、最近では『洪水の年』(岩波書店)が2018年に刊行されているほか、2000年度のブッカー賞、ハメット賞受賞作『昏き目の暗殺者』(早川書房)がまもなく文庫化刊行予定。2位はモダン・ホラーの巨匠キングの新作で、ドラマ化が予定されているとのこと。『IT』映画版後編公開と連動して電子版を含めたリストでは1位を獲得しています。4位はヒットメーカー、パタースンのドラマ化関連作品。ドラマ『インスティンクト』については堺三保さんによるこちらの記事をご参照ください。7位は海洋冒険小説の帝王カッスラーの2つの人気シリーズをつなぐ作品。ダーク・ピット・シリーズ初期のヒット作『タイタニックを引き揚げろ』(パシフィカ、のち新潮文庫)の前日譚でもあるとのこと。その他、ベストテン外では15位にサルマン・ラシュディの新作“QUICHOTTE”が登場。1位のアトウッドとともに今年度のブッカー賞にノミネートされています。

 

  1. 吉井智津(よしい ちづ)

    翻訳者。訳書に、ナディア・ムラド『THE LAST GIRL―イスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語』(東洋館出版社)、アラベラ・カーター・ジョンソン『小さなモネ―アイリス・グレース―自閉症の少女と子猫の奇跡』(辰巳出版)など。