1. クリス・クノップ『私が終わる場所』熊谷千寿訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)
    2. ジョン・バーナム・シュワルツ『帰らない日々』高瀬素子訳(ハヤカワ・ミステリ文庫/旧題『夜に沈む道』)
    3. ケント・ハリントン『死者の日』田村義進訳(扶桑社)
    4. デイヴィッド・グーディス『狼は天使の匂い』真崎義博訳(ハヤカワ・ミステリ)
    5. スティーヴ・ヤーブロウ『酸素男』松下祥子訳(ハヤカワ文庫NV)

 アメリカにおけるサブプライム・ローン破綻に端を発し、リーマン・ブラザース倒産で拍車をかけた世界的な大不況は、いまだ出口の見えない状況だ。しかしながら、好景気のときでさえ、確実に安泰だといえる人生などない、のである。明日のことさえ、わからない。ちょっとしたつまづきで、あっさりすべてを失うかもしれない。

 というわけで、主人公が人生のどん底へと落ちていく、社会の最底辺で生きる、もしくは、最底辺で生きていかざるをえなくなる、というサスペンスを五つ選んでみた。

 ただし、傑作順というわけではなく、読みやすい、分かりやすい作品順に挙げていったつもり。じつは当初、ダグラス・ケネディ『仕事くれ。』(新潮文庫)を選ぼうと思っていたが、なんと現在ケネディ作品はすべて絶版状態。「復刊してくれ。」である。いや、読みやすさでいえば、出世作『ビッグ・ピクチャー』のほうがお薦めかもしれない。まずは探してお読みあれ。

 で、選びなおした第一位は、『私が終わる場所』。主人公サムは、かつて大企業の工学センターで働いていたエンジニア。だが、職を失い、母の生家である海辺の町で暮らしていた。妻と娘とは絶縁状態。酒におぼれ、無為な日々を生きる男。ところが隣人の老女の死体を発見したことから、運命は変わっていく……。基本的には、ある種のハードボイルドと呼ばれるスタイルを踏襲している小説であり、けっして単なる「どん底」のままで終わらないため、「救いのない物語は苦手」という人にも満足いただけるだろう。

(つづく)