1ハンス=オットー・マイスナー『アラスカ戦線』(ハヤカワ文庫NV)

2デズモンド・バグリイ『高い砦』(ハヤカワ文庫NV)

3ギャビン・ライアル『深夜プラス1』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

4ブライアン・ガーフィールド『ホップスコッチ』(ハヤカワ文庫NV)

5リチャード・スターク『悪党パーカー/殺人遊園地』(ハヤカワ・ミステリ)

 太古のころ獣を追いかけていた祖先の血が騒ぐのであろうか、逃走と追跡の小説が好きである。追われる者の恐怖、あるいは追う者の焦燥。秘密情報を抱えての逃亡か、テロ行為阻止のための追跡か。その動機と目的は多種多様だが、極限の設定であればあるほど両者の体力と知力が試される。このジャンルの傑作はスピーディでスリリングな展開だけでなく、追う者、追われる者、両者のメンタルな部分がしっかりと描かれた作品が多い。

 はじめのチョイスが、ハンス=オットー・マイスナーの『アラスカ戦戦』(1964年)である。

 時は第二次大戦末期。日本軍はアラスカ経由でアメリカ本土爆撃を計画する。だが問題となるのはアラスカの恒常的な悪天候。そこで日高遠三太尉以下総勢11名の日本軍兵士は気象情報を送信するため、敵陣であるアラスカにパラシュート降下し活動を開始する。一方、山脈の奥深くから発信される電波をキャッチしたアメリカ軍は、自然を知り尽くしたアラスカ・スカウトのアラン・マックルイアを中心にした偵察隊を現地に送り込む。

 名前からも分かるように、マイスナーは1909年生まれのドイツ人作家である。第二次大戦前に大使館書記官として日本に滞在していたという。アメリカ人やイギリス人による戦争映画や小説ではドイツ人や日本人は悪役と決まっていて、得てしてステロタイプに描かれがちだが、本作はまったくそのようなことはない。世俗的な出世に背を向けた二人の男がぶつかり合いながら、物語は二転三転する。戦いの果てに二人は何を得たのか。冒険小説の殿堂入り必至の傑作である。

(つづく)