アメリカのベストセラー・ランキング

10月20日付 The New York Times紙(ハードカバー・フィクション部門)

 

  1. 1. THE WATER DANCER    Stay

Ta-Nehisi Coates  タナハシ・コーツ

南部の黒人奴隷ハイラム・ウォーカーは子供のころ母親と引き離され、その記憶を封印して生きてきた。ある日、川で溺れそうになったとき、水を介して瞬間移動する自分の不思議な力に気づく。死の淵から生還したハイラムは、奴隷解放運動に参加し、その霊力で家族や仲間を救おうとするが、力を操るには母親との思い出をたどる必要があった。全米図書賞受賞作『世界と僕のあいだに』で人種差別問題を投げかけたあと、著者コーツがはじめて書いた小説。

 

  1. 2. THE INSTITUTE    Stay

Stephen King スティーヴン・キング

侵入者に両親を殺され、真夜中に自宅から連れ去られた12歳の少年ルーク。目覚めると、きのうまで暮らした自分の部屋とそっくりだが窓のない部屋にいた。そこはある邪悪な目的をもった施設で、ルークのほかにも子どもたちが何人も集められていた。そしてその子たちに共通していたのは、全員がテレパシーやテレキネシスといった特殊能力をもっていることだった。

 

  1. 3. WHERE THE CRAWDADS SING    Up

Delia Owens デリア・オーエンズ

1950年代、ノースカロライナの田舎町。幼くして家族に捨てられた少女カイヤは、町の人々の偏見にさらされながら沼地に隠れ住んでいた。やがて、たくましさと繊細さを併せもつ美しい娘に成長し、ふたりの若者との交流によって心を開いていくが、町で殺人事件が発生し、疑いの目を向けられる。

 

  1. 4. THE DUTCH HOUSE    Up

Ann Patchett アン・パチェット

瀟洒な屋敷〈ダッチハウス〉で何不自由なく暮らす二人の子供、姉ミーブと弟ダニー。あるとき継母がやってきて二人は屋敷から追われてしまう。それから数十年、つらい生活のなかで姉弟は分かちがたい絆で結ばれる一方、二度ともどれない家へと何度となく引き寄せられていく。家族の離散と過去への執着の物語。

 

  1. 5. BLOODY GENIUS    New!

John Sandford ジョン・サンドフォード

「獲物」シリーズのスピンオフにあたるヴァージル・フラワーズ・シリーズの第12作。ミネソタ州の大学図書館で高名な教授の撲殺死体が発見される。対立していた同僚、元教え子、元妻たち……多すぎる容疑者候補に、ヴァージルの捜査は難航する。

 

  1. 6. THE TESTAMENTS    Down

Margaret Atwood マーガレット・アトウッド

環境破壊などで極端な少子化が進んだ近未来、子を産むためだけに支配層に仕える“侍女”たちの世界を描いたベストセラー・ディストピア小説『侍女の物語』(ドラマ『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』原作)の続編。前作からさらに15年後の世界を、独裁国家ギレアデの内側と外側にいる3人の女性の視点から描く。2019年度ブッカー賞受賞作。

 

  1. 7. VINCE FLYNN: LETHAL AGENT    Down

Kyle Mills カイル・ミルズ

CIA諜報員ミッチ・ラップはISISのリーダーを追ってメキシコの麻薬カルテルへ潜入するが、これは敵の陽動作戦だった。ISISはその隙に死のウィルスを使った生物兵器の完成をもくろむ。大統領選のさなか、空前の生物テロの脅威が迫る。原作者ヴィンス・フリン他界後、カイル・ミルズが書き継いでいるミッチ・ラップシリーズの第18作。

 

  1. 8. CILKA’S JOURNEY    New!

Heather Morris ヘザー・モリス

第二次世界大戦下、アウシュヴィッツ強制収容所に連行された16歳のシルカは、生き延びるために収容所長の愛人となる。さらに終戦後、今度は対独協力者としてシベリアでの収容所生活を強いられる。苦難の連続のなか、シルカは収容所の病人たちの看護に生きる意味を見出していく。『アウシュヴィッツのタトゥー係』の作者による長篇第2作。

 

  1. 9. FULL THROTTLE    New!

Joe Hill ジョー・ヒル

新世代モダンホラーの旗手ジョー・ヒルによる2冊目の短篇集。スティーヴン・キングとの共作‘Throttle’、‘In The Tall Grass’(Netflixオリジナル映画『イン・ザ・トール・グラス ―狂気の迷路―』原作)を含む13篇を収録。

 

  1. 10. IMAGINARY FRIEND    New!

Stephen Chbosky スティーブン・チョボスキー

ペンシルバニア州の村にひっそりと暮らしはじめたケイトと7歳の息子クリストファー。ある日クリストファーが森に迷いこみ、数日後に無事帰宅する。だがその頭のなかには、不思議な声が聞こえるようになっていた。クリスマスまでに森にツリーハウスをこしらえろ、さもなくば、と声は囁く……『ウォールフラワー』の作者によるホラー長篇。

 

【まとめ】

5位、8位、9位、10位に新作が入りました。8位のヘザー・モリスは世界的ベストセラーとなった前作の邦訳『アウシュヴィッツのタトゥー係』が先月刊行され、映像化も決定しています。9位のジョー・ヒルの短篇集は、収録作‘In The Tall Grass’を原作としたNetflix映画『イン・ザ・トール・グラス ―狂気の迷路―』の配信が今月はじまったところ。中篇集『怪奇日和』も先月発売されたばかりです。また、当欄がお休みだった先週1位に初登場した“THE WATER DANCER”が今週も1位をキープ。作者のタナハシ・コーツはノンフィクション『世界と僕のあいだに』で2015年の全米図書賞を受賞、トニ・モリスンから「ジェイムズ・ボールドウィン亡きあとの空白を埋める存在がようやく現れた」と称えられています。先週6位→今週4位のアン・パチェットは、過去作『ベル・カント』を映画化した『ベル・カント とらわれのアリア』(ジュリアン・ムーア、渡辺謙、加瀬亮共演)が来月公開予定、今週17日には原作の文庫版も刊行されます。

 

  1. 中谷友紀子(なかたに ゆきこ)

    翻訳者。訳書にジェニファー・イーガン『マンハッタン・ビーチ』、サムエル・ビョルク『オスロ警察殺人捜査課特別班 フクロウの囁き』、C・J・チューダー『白墨人形』など。