第4回「マイケル・シェイボンとホームズ贋作」

 日本でもアメリカでも、映画といえば『アバター』の驚異的な映像とその大ヒットが、(公開後1ヶ月以上経ってるのに)いまだに話題騒然だったりするわけですが、その陰に隠れて、アメリカ国内興収約2億ドルという、普通だったら充分な大ヒットをアメリカで記録しているのが、ロバート・ダウニーJr.主演の『シャーロック・ホームズ』です。

 まあ、ホームズものとはいっても、なんせ監督が『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』や『スナッチ』のガイ・リッチーなので、キャラだけ借りたコメディっぽいアクション映画になってて、原作とはほとんど関係ないものになってたりするんですけど。

 とはいえ、ロバート・ダウニーJr.の見るからに性格の悪そうなホームズと、ジュード・ロウの颯爽としたワトソンは、なかなか様になっていて、良い感じです。

 ちなみにこのガイ・リッチー版『ホームズ』、あまりのヒットにすでに同じスタッフ、キャストでの続編企画も進行中だとか。

 まあ、シャーロック・ホームズものの贋作というのは、映画のみならず、小説にマンガにと山のようにあるわけですが、だいたいの場合、小説の方が原典の設定に忠実なことが多いですよね。

 さて、なんでそんな話をしてるかというと、先日翻訳が新潮文庫から出たマイケル・シェイボンの『シャーロック・ホームズ最後の解決』が、まさにホームズ贋作ものだからなんですね。

『カヴァリエ&クレイの驚くべき冒険』(トリヴィアルな部分を完全収録した全訳版、出ないかなあ)ではかなりのアメコミおたくぶりを発揮し、『ユダヤ警官同盟』では見事なSFミステリ(なんせ、並行歴史ハードボイルドですからね)を書き上げたシェイボンのこと、どんなジャンル小説に挑戦しても不思議ではないのですが、ここでもなかなか一筋縄ではいかないミステリに挑戦しています。

 時は1944年、引退した89歳の老探偵(名前は明かされませんが、あきらかにホームズ)が、ドイツから逃げてきたユダヤ人少年と、彼の飼っているオウムにまつわる謎に挑むというものなのですが、なんと作中で提示される二つの謎(オウムが抱えている秘密と、それを巡って起こった殺人事件)のうち、作中では一つしかあきらかにされず、もう一つの謎はヒントだけが散りばめられていて、読者が自分で考えないといけないようになってるってあたりが、いかにもシェイボンらしいひねりになっています。いや、第二次世界大戦当時の西洋史に詳しい人には、すぐにピンとくるようにはできてるんですけど(実は、ヒントは原題にあり)。

 と聞くと、ミステリ・ファンとしてはかなり気になるでしょ。

 ちなみに、シェイボンの近況なんですけど、『カヴァリエ&クレイの驚くべき冒険』と『ユダヤ警官同盟』の映画化が着々と進行中なんだとか。どっちも楽しみですな。

 そして本人は、なんと只今、あの「トイ・ストーリー」のピクサー・スタジオが製作準備中の、「火星のジョン・カーター」(『火星のプリンセス』に始まるE・R・バロウズの〈火星シリーズ〉初期三部作を元にしているとか)のシナリオを執筆中だそうであります。映画の公開は2012年の予定。

 今まで何度も企画が出ては消えていった〈火星〉シリーズが、ほんとに今度こそ映画化されるのか、こちらも超楽しみです。

 堺三保