『クリスマスに少女は還る』キャロル・オコンネル/務台夏子
創元推理文庫/1999年9月24日刊行
身びいきだもので、押したい作品は数々あれど、「翻訳ミステリー大賞シンジケート」に載せるのにいちばんふさわしいのは、やはり『クリスマスに少女は還る』だろうか。
結末の意外さと、それがもたらす感動という点では、この作品をしのぐものはめったにないと思う。
クリスマスを控えた町から、10歳の少女ふたりが姿を消した。町の警官ルージュの悪夢がよみがえる。かつて町では、少女がさらわれ、クリスマスの朝に遺体で発見されるという事件が繰り返し起こっていた。15年前、当時10歳だった彼の双子の妹もまた、その連続殺人鬼の犠牲となっている。しかし犯人はすでにつかまり、現在も服役中。事件は終わったはずだった。真犯人は別にいたのか?
タイムリミットはクリスマスの前夜。それまでに少女たちを救おうと、警察は必死の捜査を行う。分身も同然だった妹を失った欠落を埋めきれず、いまも虚無のうちに生きるルージュが、謎の過去を持つ、顔に傷のある女性心理学者アリが、そして、町に派遣されてきたはみ出し者のFBI捜査官パイルが、次第に焦りを強めながら、あらゆる手を尽くして犯人を追う。一方、どことも知れぬ巨大な地下室に監禁されたふたりの少女たちは知恵を絞り、力を合わせて脱出を図る。ホラー・マニアで恐いもの知らずの活発なサディーと、正反対に恐がりで繊細な美少女のグウェンは、大の親友同士。極限状況下にありながら、どちらも友を見捨てることは決してない。決して……
登場人物は多数、さまざまな人間ドラマが盛りこまれたこの小説だが、初版の帯に書かれていたように、これは何よりも「救済と贖罪」の物語だ。15年前、事件に巻きこまれて、心に傷を負った者、生け贄となった者、罪の意識を抱きつづける者——彼らにそれぞれどのような救いがもたらされるのか。すべての謎が解き明かされるラスト40ページは、心を揺さぶられるシーンの連続となる。訳者として語りたいことは多々あるものの、あまり熱く語ると大事なネタを明かすことにもなりかねないので、とにかく「論より作品」。未読のかたはぜひ手に取ってみてください。
ところで、この作品の原作は1998年刊行、翻訳は1999年に出ている。その後、作者キャロル・オコンネルは、ニューヨーク市警の女刑事、マロリーを主人公としたシリーズものだけをひたすら書きつづけてきた。ところが2008年、そのオコンネルが実に10年ぶりに、シリーズ外の作品を上梓した。タイトルは、Bone by Bone。20年前、森で失踪した少年が老いた父親の家に帰ってくる。ある夜は大腿骨、またある夜は顎骨、というように、骨となってひとつずつ。そしてこれをきっかけに、止まっていた時が動きだし、過去の事件に関係した人々の秘密があぶり出され、内にこもっていた愛憎が噴出する。そんな物語だ。
私はいま、この新たなオコンネル作品を翻訳している。胸を打つ名場面、美しいエピソードの数々は、さすがオコンネル。半年後には、これが私の「自薦イチ押し本」となっていることだろう。
務台夏子