翻訳もののシリーズを長く続けるのはむずかしい。
大御所の人気作品はともかく、派手ではないけれど読んで面白い質の高いシリーズを息長く続けるのが、ほんとうにむずかしい時代になってしまった。一作目で注目されても、巻を重ねるにしたがって自然と部数が右肩下がりになる現象は以前からあったが、いまはそこを踏んばる体力が出版界になくなりかけている。
そこで、どうしてもイチ押ししたいのが、その読んで面白い質の高いシリーズ二本(欲張りですみません)。ものすごく斬新というわけでも、大向こうをうならせる仕掛けがあるというわけでもないけれど、上質な時間をお約束できる作品ばかりだ。
まず、先日北上次郎さんが七福神コーナーで推薦してくださった『震える山』の、ジョー・ピケット・シリーズ(by C・J・ボックス)。
そして、児玉清さんも大ファンでいらっしゃるコーク・オコナー・シリーズ(by ウィリアム・ケント・クルーガー)。
前者は、安月給で家庭をかかえて苦労しながらも、不屈の正義感ではだれにも負けない猟区管理官が主人公。ワイオミングの広大な山野を一人で担当する特殊な職業の危険と魅力がじつに新鮮だし、骨太なタッチは冒険小説を思わせる。
後者は、家庭もキャリアもどん底の境遇から立ち直っていく元保安官を主人公とするサスペンス。ミネソタの森と湖に囲まれた町が舞台で、ハードボイルドの味わいと美しい自然に託された叙情を合わせもっている。また、主人公の深い人間性が心に沁みる。
共通しているのは、ストーリーテリングと人物造型がうまいこと、自然描写がみごとなこと、そして主人公が家族を大切にしていること。大都会の一匹狼もいいけれど、愛する者をけんめいに守る辺境の男もいい、せつない!
そして、一口にアメリカと言ってもその広いことを、ボックスやクルーガーの作品を読むと実感する。地方の人間と都会の人間の感覚の違いがよくわかって、とても面白い。いわゆる田舎者が、L.L.Beanのカタログに染まった東部のアウトドア派を頭から軽蔑しているあたり、なるほどなあと思う。
というわけで、ともに、物語を愛する方々に自信をもってお勧めできるシリーズなのだ。本国アメリカではそれぞれ十冊近く出て、ミステリの各賞を受賞するなど高い評価を受けている。
現在、ジョー・ピケット・シリーズの邦訳刊行は、『沈黙の森』『凍れる森』『神の獲物』『震える山』まで。
コーク・オコナー・シリーズは『凍りつく心臓』『狼の震える夜』『煉獄の丘』『二度死んだ少女』まで。
読者のみなさん、お願い、息切れしないでくださいね! 刊行の間隔があいてしまうのは、翻訳が遅いせいではありません(汗)。いろいろ事情がありまして……前の話を忘れないうちに続きが出るといいんですが。
評論家のみなさん、拙訳にかぎらず、どうかコツコツと出ている翻訳シリーズものを応援してください! 坂の途中の一杯の水は、ほんとうにありがたいです。