『水時計』

ジム・ケリー/玉木亨訳

創元推理文庫

『水時計』の魅力については、すでに川出正樹氏が「私設応援団・これを読め!」で

たっぷりとりあげてくださっているので

http://wordpress.local/1260946324)、ここでは物語の

舞台として重要な役割をはたしているイーリーの町と大聖堂、それに“フェンズ”と

呼ばれる沼沢地帯を写真で簡単にご紹介していきたいと思います。

十七世紀にオランダ人技師を招いて本格的な干拓工事がおこなわれるまで、イーリーはまわりを湿原に囲まれた島でした。イーリーの南九マイルには干拓されずに保存されている沼沢地「ウィッケン・フェン」があって、人びとが泥炭を燃料にし、葦で屋根を葺き、魚や水鳥を食べて生活していたころの風景をうかがい知ることができます。

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 イーリーの町のふもとにはグレート・ウーズ川が流れていて、『水時計』のなかで“水上の安酒場”などと揶揄されているレジャーボートを何隻も目にすることができます。

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 イーリー醸造所の一部を映画館とレストランに改造した複合施設〈モルティングス〉はちょうどこの川岸にあって、事件記者のドライデンはここでひらかれるパーティにでるまえに、氷に閉じこめられて沈没しかけている運河用平底船をみつけて取材します。

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 このあたりから上流にむかって土手道を五分も歩いていくと、もうそこには建物も人影もなく、ただひたすら平坦な土地がつづいています。ひとつめの死体が発見されるラーク川はグレート・ウーズ川の支流にあたり、やはりこんな感じの風景がひろがっているのものと思われます。

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〈モルティング〉のある川岸から斜面をのぼって丘のてっぺんにあるのが、有名なイーリーの大聖堂です。写真のなかで中央にそびえているのが“自らの重みでノルマン時代の基礎がゆがんでしまった”西塔で、その塔からむかって右側へのびている建物の屋根の樋で白骨死体が発見されます。

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 西塔のなかの狭い階段をいちばん上までのぼって展望デッキにでると、正面に十字架形をした大聖堂の中心に位置する八角塔をのぞむことができます。西塔のつけ根ちかくの屋根で発見された白骨死体は、この展望デッキから転落したものと考えられます。

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シリーズ第二作 THE FIRE BABY では、『水時計』から一転して猛暑にあえぐフェンズを舞台に、ふたたび事件記者のドライデンがさまざまな取材をつうじてある殺人事件の真相に迫ります。ドライデンの足として活躍するタクシー運転手ホルトも登場してあいかわらずの名コンビぶりをみせてくれますので、どうぞご期待ください。

 玉木亨