第6回「騙しあいにご用心」

  翻訳ミステリファンの皆さんならコン・ゲームという言葉はご存じですよね。「騙すか、騙されるか」という詐欺師に代表される知能犯の犯罪を描いた作品のことで、基本的に暴力を使わないこともあって、ユーモラスなコメディ仕立てになっていることも多いものです。

 小説だと、ジャック・フィニイの『五人対賭博場』、ドナルド・ウエストレイクの『我輩はカモである』、あるいはジェフリー・アーチャーの『百万ドルをとり返せ!』あたりが有名でしょう。

 日本にも小林信彦の『紳士同盟』なんてのがありますよね。

 映画で言うとポール・ニューマンとロバート・レッドフォードが共演した「スティング」が代表的な作品でしょうか。

  今回は、そんなコン・ゲームもののテレビドラマ「レバレッジ 〜詐欺師たちの流儀」をご紹介しようと思います。

 このドラマは、とある事件がきっかけで、かつて保険調査員だった主人公の元に集まった犯罪のプロたちが、悪人たちに騙されたり脅されたりしてお金を取られた一般市民の悩みを聞いては、悪党どもにキツイお灸を据えると共に、奪われた額の何倍ものお金を依頼人に返してあげるという、現代版義賊の物語なのです。

 設定だけでもけっこうわくわくさせられるのですが、さらにおもしろいのは毎回のミッションが詐欺一辺倒じゃないところ。

 もちろん、毎回いろんな「騙し」のテクニックが披露されはするのですが、何かを盗み出すこともあれば、誰かを救出することもあるという、バラエティ豊かな展開が妙味なのです。

 また、登場人物たちが皆個性的でおもしろいのも良いところ。

 頭脳明晰、清廉潔白な元腕利き保険調査員なれど、息子を失ったショックからアル中になってしまっているリーダーのネイサン。

 騙しの腕は天下一品の女詐欺師。ただし、女優志望のくせに、舞台に上がった途端、最悪な大根役者になってしまう詐欺師のソフィー。

 女性ながら、どんな難攻不落の場所にでも忍び込んでお宝を手に入れる盗みの天才。ただし、悲惨な子供時代のせいで、喜怒哀楽の感情が今ひとつ理解できていない奇人の怪盗、パーカー。

 ありとあらゆる格闘技に精通した格闘のプロで、絶対に銃を使わないのをルールにしているケンカ屋のスペンサー。

 コンピュータをはじめとする電子機器をいじらせたらなんでもこい。ただし、おしゃべりとオタク趣味が玉にきずというハッカーのハーディソン。

 以上五人のレギュラーが、それぞれに特技を持つだけではなく、人間的な弱点を持っていて親しみのおける人物なのです。

 アメリカではよく似た映画として「オーシャンズ11」を引き合いに出して誉めてる記事もあったりしますが、あちらがちょっとメンバーが多すぎて、影の薄いメンバーがいるのとは逆に、「レバレッジ」はこの五人のキャラが実によく描けてるんですね。

 ユーモアも人情もアクションもスリリングなどんでん返しもたっぷり入った娯楽性たっぷりのドラマ。日本でも3月末からCSで放送が始まってますので、興味を持たれた方はぜひ。

  さて、毎回、手を変え品を変えて笑わせてくれる犯罪コメディといえば、最初に名前を上げたドナルド・ウエストレイクの作品でも、〈ドートマンダー〉シリーズがあります。

 これは、腕は良いはずなのに仕事をするたびに毎回なぜかドタバタと大騒ぎになってしまう不運な天才犯罪プランナ−、ジョン・アーチボルト・ドートマンダーと、その仲間の泥棒たちが繰り広げる騒動を描いた連作ミステリです。

 何度も何度も同じ宝石を盗むはめになってしまう『ホットロック』、銀行を建物ごと盗もうとする『強盗プロフェッショナル』、小説のプロット通りに誘拐で稼ごうとして四苦八苦する『ジミー・ザ・キッド』、目当てのモノが盗めずに要らぬモノばかり盗んでしまう『最高の悪運』等々、毎度毎度笑わせてくれます。

「レバレッジ」はメインが詐欺、〈ドートマンダー〉はメインが盗みという違いはありますが、緻密な計画、愉快な仲間、そして毎回起こるハプニングと予想外の展開というあたり、最初に挙げたコン・ゲームものの名作群よりも、こちらのほうが「レバレッジ」と雰囲気は近いかも。いや、もちろん「レバレッジ」のメンバーのほうが、ドートマンダーたちよりもずっと優秀ですが(笑)。

 まだまだ未訳の作品も残っているこのシリーズ。まとめて出し直してくれるところがあると嬉しいんですけど(遠い目)。

堺三保