第8回「そろそろ新番組情報の季節。この秋の話題を独占するミステリドラマはどれ?」
先月は更新が遅れてすいませんでした。
いやー、期末試験だ、卒業式だ、送別会だなんだと、やたらとドタバタしていたもので(知らない方もたくさんおられると思いますが、筆者は先月まで約三年半、南カリフォルニア大学映画芸術学部映像製作学科の修士課程に通っていたのです)。
というわけで、アメリカは5月が年度末。6〜8月は長い長ーい夏休みで、テレビドラマもお休みとなってしまいます(最近は、地上波のドラマが休んでるこの時期を狙って、ケーブルテレビ局の新作ドラマが放送されたりしてますが)。
でもって、テレビドラマは毎年9月から新シーズンが始まるのですが、すでに秋新番組のニュースは発表になっています。
今回は、その中からミステリ系ドラマを選んで、放送局ごとにざっと紹介していきましょう。今回は文章増量でいきますぜ(笑)。
まずは、「CSI」シリーズや「NCIS」、「メンタリスト」などミステリものが相変わらず好調なCBSから。
なんとCBSの秋の目玉は、往年の警察アクション「ハワイ5-0」のリメイク版「Hawaii Five-0」。オリジナルは10年以上続いた大ヒット作品だったけど、さて今回はどうなるんでしょう?
ハワイと言えば、やはりハワイを舞台としたミステリ「私立探偵マグナム」で人気俳優になったトム・セレックが、ニューヨーク市警に勤務する警官一家のお父さんを演じるのが「Blue Bloods」。警官たちのリアルな私生活に焦点があたるみたいです。
さて、もう一本の目玉は人気ドラマ「クリミナル・マインド FBI行動分析課」のスピンオフ「Criminal Minds 2」。主演は映画でもお馴染みの黒人性格俳優フォレスト・ウィテカー。
さらにもう一本、ラスベガスを舞台に型破りな弁護士コンビが活躍する法廷ドラマ「The Defenders」というのも始まるそうです。
お次は、人気ドラマ「LOST」が最終回を迎えちゃって、なんとしても新しい目玉番組が欲しいABC。
ABCの新作ミステリは3本。
まずは、CBSの「CSI」シリーズで儲けまくってるブラッカイマーがプロデュースする法廷モノ「The Whole Truth」。はたしてブラッカイマーはABCでもヒットをとばせるか?
そして、仕事とプライベートの両立に悩む女性検視医の活躍を描く「Body of Proof」。
でも、一番の注目作は、デトロイトを舞台に、頻発する凶悪犯罪に挑む刑事たちの日々を、セミドキュメンタリータッチでリアルに描いていくという「Detroit 187」でしょう。
さて、かつての3大ネットワークの一角で、「Law & Order」シリーズという長寿ヒット作を持ちながらも、保守的なドラマ作りから「老人向けテレビ局」という陰口をたたく人もいるのがNBC。
そのNBCにも、ブラッカイマー製作の新作が一本。「Chase」というタイトルのノンストップアクションらしいですが、さてどうなんでしょ。
もう一本の目玉は、「LOST」のJ.J.エイブラムスが刑事アクションに挑んだという「Undercovers」。
コメディアンにしてトークショウの名ホストだったコナン・オブライエンがプロデューサーに初挑戦するのが、法廷モノの「Harry’s Law」。
そして、「Law & Order」シリーズの最新スピンオフ「Law & Order: Los
Angeles」、さらに、罠にはまってお尋ね者になった警官が、コミックスのヒーローにヒントを得、仮面の男となって復讐に乗り出すという「The Cape」と、6本もの新作ミステリが待機中。
でも、ほとんどの企画が内容より、製作者の名前で勝負してる感じがしてるあたり、「年寄りの冷や水」っぽく見えなくも(苦笑)。
若者向けドラマ、スポーツ中継、お下劣で批判精神旺盛な大人向けアニメ、それに思いっきり右寄りに偏向したニュースと、極端なスタンスで見境なくお客さんを獲得してるのがFOXチャンネル。
そのFOXの新作ミステリは1本だけ。悪徳警官もの「ザ・シールド」や、特殊部隊もの「ザ・ユニット」のショーン・ライアンの新作刑事アクション「Ride-Along」。過激でひと癖もふた癖もある作品を作ってきたライアンが、今度はどんな刑事ものを作るのか、興味津々です。
ラストは、ワーナーとパラマウントが共同出資している弱小テレビCW。
CWの新作は、リュック・ベッソン監督のスパイアクション「ニキータ」をリメイクした「Nikita」。実は「ニキータ」は、前にも一度別の局がリメイクしたテレビドラマがあるんですが、今回はどんな風にアレンジされるのやら。というか、今回の主人公を演じるのが、「Mi-III」や「ダイハード4.0」で強烈な印象を残したマギーQというところが、なんといっても最大の見どころかも。
ここまで、いろいろ紹介してきましたが、中でも個人的に気になる新番組というと、やはりリアル指向の警察ドラマらしい「Blue Bloods」と「Detroit 187」でしょうか。
一般に刑事ドラマというと、警察官が探偵役となって毎回事件を解決するというのがフォーマットとなっています。今大人気の「CSI」のような科学捜査ものも、その一変型と言っていいでしょう。
ですが、アメリカのテレビドラマには、警察官群像劇とでもいうべき、もう一つの警察ドラマの系譜があります。
それは、古くは一話完結のアンソロジードラマである「ポリス・ストーリー」に始まり、80年代にテレビドラマに革命を起こした「ヒルストリートブルース」で方向が定まり、「女刑事キャグニー&レイシー」、「NYPDブルー」、「ホミサイド」、「サード・ウォッチ」、「ザ・シールド」等々、数々の傑作を生み、「ER」を始めとする「専門職群像劇」の流れをも生み出した、そんな系譜なのです。
これら警察官群像劇の特徴は、なんといっても「職業としての警察官」に焦点を当てたリアルなドラマ作りにあるでしょう。
主眼が「警察という仕事のリアルな描写」にある以上、主人公たちは名探偵でもヒーローでもない、ただ、仕事をして警官を選んだだけの、普通の人たちです。だから、快刀乱麻に事件の謎を解いたりはできません。
お話のスタイルも、一話につき一つの事件だけを扱う、わかりやすい一話完結のスタイルをとらないことが多く、同時に複数の事件が扱われ、場合によっては解決しない事件まで出てきてしまう、見ている人にフラストレーションを与えてしまうような作りになっています。
馴染みのない人にとっては、ストレスが溜まるキツイお話ではありますが、だからこそ、一回はまってしまえば、登場人物たちの苦悩や行動にどっぷり感情移入して、どきどきしながら毎週見てしまう。そんなドラマなのです。
ところで、アメリカの推理小説における、最初のリアルな警察モノと言えば、エド・マクベインの〈87分署〉シリーズを挙げる人が多いはずです。
なにせ、1956年の第一作『警官嫌い』から、2005年の最終作『最後の旋律』まで、半世紀にわたって50作以上書き続けられた、警官ものミステリの傑作ですからね。
問題は、あまりに長期にわたって書き続けられたもので、登場人物たちは歳を取らないのに、街の様子や警察の捜査方法などはどんどん時代に合わせて変化していくという、「サザエさん」みたいな齟齬が生じてしまったことでしょうか。
でも、そこにさえ目をつぶれば、どの作品も、その時代時代のリアリティをストーリーに反映させていて、ものすごくおもしろいのは間違いありません。
私も〈87分署〉シリーズの大ファンでして、傑作ぞろいの50〜60年代の作品はもちろん、90〜2000年代の作品も大好きです。
さて、作者のマクベインは生前、「ヒルストリートブルース」や「NYPDブルー」が大ヒットしてるのを、「自分の作品がオリジナルなのに」と苦々しく思っていたようです。
〈87分署〉シリーズ後半の名キャラクターである「デブのオリー」ことオリー・ウィークス刑事は、テレビの警察ドラマに出てくる自分に似た感じの俳優について毒づいていましたが、あれは「ヒルストリートブルース」と「NYPDブルー」で人気を博した俳優デニス・フランツのことを指していたと思われます。
でも、実際には〈87分署〉は、警官ものではあるものの、やはり狭義の「ミステリ」的な小説なんですよね。なんたって(小説なんだから当然ではあるんですが)一話完結型だし、事件の解決に際してミステリ的な謎解きの趣向があることも多いし。
唯一、繰り返し何度も登場する犯罪者「死んだ耳の男」なんてキャラもいますが、あれはまさに「怪人二十面相」とか「ファントマ」みたいな古典的悪漢の末裔ですしね。
どちらかというと、「ヒルストリートブルース」のようなリアルな警官ドラマの原型は、ジョゼフ・ウォンボーの小説にあるような気がします。
元警官のウォンボーは、1970年、ロサンゼルス市警の警官たちの日々をリアルに描いた『センチュリアン』で衝撃的なデビューを飾りました(ちなみに、デビュー時はまだ現職の警官でした)。
『ブルー・ナイト』や『クワイヤボーイズ』といった彼の初期の作品群は、まさに警官たちの息づかいが聞こえてくるような、リアルでなまぐさい物語です。
嬉しいことにウォンボーは、近年になって、再びロサンゼルス市警の警官たちの人間くさい活躍を描いた小説を(しかも今度はシリーズで)書いてくれるようになっています。これがまた実におもしろいんですよ。
現在、『ハリウッド警察25時』と『ハリウッド警察特務隊』が翻訳されていますが、続きも早く出ないかなあ。