第9回「西部魂は消えじ。保安官が主人公の現代ウェスタン『ジャスティファイド』」
アメリカは日本よりも一足先に長い長い夏休みシーズンに突入しています。おかげで映画館では、ど派手なアクション大作が目白押しだったりするのですが、前作同様快調な「アイアンマン2」を除けば、火薬の量が多い割にはどうにもピリッとしない作品ばかりで、少々飽きてきております。
てなわけで、ってことでもないのですが、今回は低予算ながらもピリリとした味のあるテレビドラマ「ジャスティファイド」を紹介したいと思います。
時は現代、舞台はアメリカはケンタッキー州の片田舎。
主人公のレイラン・ギヴンズは、目的のためには手段を選ばないコワモテな連邦保安官。
彼は、マイアミで逃亡犯相手に派手な銃撃戦を展開したあげく、その行動の「正当性を証明(ジャスティファイド)」できたものの、フロリダでの任務から解かれ、自身の故郷であるケンタッキーの鉱山町、ハーラン・カウンティにトバされてしまいます。
ところが、レイランは、一見穏やかそうな田舎町にうごめく悪を見つけると、持ち前の正義感と行動力で、時に法律の枠を越えた戦いを挑み始めてしまうのでした。
一匹狼の保安官が、町に巣くう悪を退治する。つまりこれって、現代版西部劇なのですよ!
主人公のレイランを演じるのは、「ダイハード4.0」でテロリストの親玉を演じていたティモシー・オリファント。彼は今年アメリカで公開されたホラー映画「ザ・クレイジーズ」でも田舎の保安官を演じているのですが、二枚目でありながらどこか木訥な感じもする顔立ちが、保安官の制服によく似合っています。
シリーズのクリエイターは、「スピード」、「バンド・オブ・ブラザーズ」そして「ザ・パシフィック」のグラハム・ヨスト。シリアスなアクションを知り尽くしたヨストの脚本は、ハードボイルドとウェスタンの雰囲気をうまくミックスした痛快さを生み出しています。
テンガロンハットかぶって、ショットガン片手に歩くオリファントが、とにかくかっこいいんだ、これが。
さて、実はこの「ジャスティファイド」、原作になるストーリーはないのですが、主人公のキャラクターには元ネタがあるのでした。
連邦保安官レイラン・ギヴンズは、エルモア・レナードの小説(長篇『プロント』、『ライディング・ザ・ラップ(未訳)』、短篇「ファイヤー・イン・ザ・ホール(未訳)」)に登場するキャラクターなのです。といっても、『プロント』では確か脇役でしたけど。
レナードといえば、ひと癖もふた癖もある悪党たちがドタバタを繰り広げる、乾いたユーモアがトレードマークの犯罪小説作家といったイメージもありますが、元々は西部劇小説を大量に書いてた人(最近リメイク映画化された「決断の3時10分」(1957)もレナード原作)で、現代を舞台にした西部劇っぽいストレートなアクションも多いんですよね。やはり映画化された『ミスター・マジェスティック』なんかも、田舎の農場主が理不尽な暴力に敢然と立ち向かう話だし。
それにしてもレナードの作品は映画化されてるものが多いですね。そういや、『プロント』もピーター・フォーク主演で95年に映画化されてるもんなあ。
たぶん、レナードの作品って、ほとんどがシリーズものじゃないし、プロットにヒネリがあるから、単品として映画化しやすいと思われてるんでしょうけど、少なくとも日本ではその2点が逆に災いして、あまり人気が出ていないような気もします。翻訳もけっこうされてるんですけど、なんせ多作家だから、全然追いついてないんですよね。
『ゲット・ショーティ』とか『アウト・オブ・サイト』とかって、映画もおもしろかったのに。
そういや、レナードといえば、数年前にも、『アウト・オブ・サイト』の女性主人公だけを使って、連続テレビドラマ化されたことがあったのでした。そちらのほうは残念ながら1シーズンで打ち切りになっちゃったんですけど、考えてみたらアレって今回の「ジャスティファイド」とほとんど同じ方法論ですね。
もしかしてもしかしたら、「ジャスティファイド」はレナードにとってはリターンマッチなのかも。
あ、ちなみに、「ジャスティファイド」はアメリカではケーブルTVのFXで放送されているのですが、かなり好評で、すでに第2シーズンの製作が決定したそうです。日本でも早く紹介されるといいなあ。西部劇と聞くと血が騒ぐ、私みたいな時代からズレきったぼんくら野郎は必見ですぜ!