第2回
「ひとりごと」と題しながら、なんだか妙な話をはじめてしまい、前回は、出版ビジネスの大枠をご説明し、近所の書店にほしい本が置かれていない理由にたどり着きました。
それでも、世間に本はあふれていますよね。いったい、どれぐらいの種類の本があるんでしょう? 日本では、1年間に何点の新刊が作られているのでしょうか。
見当がつかないですよね。
たとえば扶桑社海外文庫は、いまはかなり減ってしまって、だいたい毎月2〜4点が平均です(上下巻もふくめて)。年間でいえば、30〜40点といったところでしょうか。
では、日本のすべての出版社を総合すると、いったいどれぐらいの数になるでしょう?
答え——国内で1年間に作られる書籍は、およそ8万点と言われています。
8万点ということは、単純に割れば、1日に200点あまりの新刊が作られている計算になります。
こう考えてください。どんな新刊でもそろえる書店があったとしましょう。ここには、その日に発売された200点の新刊が届きます。それを全部ならべたと思ったら、翌日にもまた200点が届きます。それをならべると、またその翌日にも……という調子で、毎日200点が届きつづける、ことになります。
ちょっとびっくりですよね。これだけ多品種の新商品を生産しつづける産業もすくないでしょう。
それをあつかう書店のみなさまの毎日のご苦労にも、頭が下がります。
では、それだけ出ている本のなかで、翻訳書の占める割合はどれぐらいでしょう?
これも概算になりますが、8〜10%ぐらいだと言います。もちろんそのなかには、ビジネス書も児童書も学術書もふくまれています。
ちなみに、翻訳書のうち7割が英語圏のものだとか。
その規模で考えると、翻訳ものはベストセラーが出やすい、なんていう意見もあって、まあ、そういう面はなくもないかもしれません。
《ハリポタ》とか『ダ・ヴィンチ・コード』とかがありますし、ビジネス、ノンフィクション、セルフヘルプなどでは、さらに増えますね。「世界的に売れる本は日本人にもアピールする」ということなんでしょう(もっとも、海外で売れたからといって、かならずしも日本で売れるとはかぎらないし、逆に本国より日本で売れる、なんて場合もあります)。
ちなみに、台湾の出版関係者から聞いた話ですが、かの地では全出版物の6割が翻訳ものなのだそうです。もちろん、英語ばかりでなく、日本語や韓国語からの翻訳も多く、日本の出版社にとっては、自社の本の翻訳権を買ってくれる、大事な取引先です。
これまで、日本は翻訳大国だ、などと言われてきましたが(そして、それは文化的にはまちがってはいませんが)、台湾は、割合で言えばはるかに日本より上なのです。もっともこれは、自前の著者がすくないという要因も大きいようですが。
では、次回はさらに突っこんで、そんなに本を作って、ビジネス的にもうかるのかを考えてみましょう。
扶桑社T
扶桑社ミステリーというB級文庫のなかで、SFホラーやノワール発掘といった、さらにB級路線を担当。その陰で編集した翻訳セルフヘルプで、ミステリーの数百倍の稼ぎをあげてしまう。現在は編集の現場を離れ、余裕ができた時間で扶桑社ミステリー・ブログを更新中。ツイッターアカウントは@TomitaKentaro。
●扶桑社ミステリー通信