第3回
さて、前回まで出版というビジネスのアウトラインを見てきました。日本では、毎日200点あまりの新刊が出ている計算になる、というんですから、たいへんなことですよね。
そうなると、こんな疑問がわきますよね—— 出版ってもうかるの? 本って、どれだけ利益が出るの?
では、その根源的な質問について考えてみましょう。
わかりやすく、定価1000円の本を1万部作ったとします。
このときの生産額は、1000円×10000部で、1000万円。新刊を作っても、動く金額はこの程度です。企業活動としては、そう大きくはないですね。
さて、この定価のうち、出版社の収入は70%弱(この額は、会各社の事情で異なります)。逆に言えば、書店さんと、「取次」と呼ばれる流通業者との取り分が、合計で30%強ということです。ここでは、取次と書店の取り分が31%としましょう。1000円の定価のうち、310円ですね(これは、書店の収入がすくない=経営がきびしいという理由にもなります)。
さて、本を工業製品としてみると、紙代、印刷代、製本代などがかかることがわかると思います。この物理的な部分にかかる費用は、ざっくり言って10%台といったところ。
もちろん、作る数が多ければ1冊あたりの単価は安くなりますし、多色刷りや特殊な紙などを使えば費用はかさみますから、かかる金額は一概には言えません。ソフトカバーとハードカバーでは、もちろんハードカバーのほうが高くつきますし。
とりあえず、ここでは14%としてみます。1000円の本のうち140円が、紙代や印刷などの実費ということです。
それに、広報宣伝や販売促進などの費用がかかりますね。新聞に広告を出したり、書店に営業したり、拡材を用意したりする資金を、本の予算にカウントするわけです。これも出版社によってかなり差があると思いますが、まあ、ここでは合計12%としましょう。120円ですね。
さらに、編集段階でかかる費用があります。デザイナーさんやイラストレイターさんに仕事をお願いしたり、写真を借りたり、あるいは本文の校正を頼んだり、地図や図表を作ったり、解説原稿を依頼したりと、さまざまな費用がかかります。それに、ゲラのやり取りをする際の宅配便代とか、移動にかかる交通費とか、ついでに打ち合わせのときの喫茶店代とか。あるいは外部の編集スタッフに助力を頼むこともあるので、そういった費用などをひっくるめて、ここでは90万円かかったとしてみましょう。1冊あたり、90円ですね。
そしてもちろん、大事な印税があります。作家の印税は10%だ、というのは、みなさんご存じだと思います。つまり、1000円の本なら、100円が作家の取り分になるわけです(もちろん、これも場合によって大きく変わりますが)。
翻訳書の場合は、さらにこの印税の幅が大きくなります。原著者と翻訳者という2者が著作者となるからです。多くの場合、原著者の印税は6〜9%程度(ほんとうはアドバンス制がありますが、これでは触れません)。そして、翻訳者印税は最大で8%といったところ(翻訳者の印税問題にもここでは触れません!)。今回は、原著者7%+翻訳者8%で、15%かかったとしてみましょう。150円ですね。
なんだかバルザックの経済小説みたいになってしまいましたが、これで計算しましょう。
定価1000円−310円(流通)−140円(製作費)−120円(宣伝・販促費) |
つまり、1000円の本を売ったとして、そのうち出版社の利益は190円! しかも、これは売れたことを前提にした数字です。そのあたりのさらにメンドウな事情は、また次回に。
扶桑社T
扶桑社ミステリーというB級文庫のなかで、SFホラーやノワール発掘といった、さらにB級路線を担当。その陰で編集した翻訳セルフヘルプで、ミステリーの数百倍の稼ぎをあげてしまう。現在は編集の現場を離れ、余裕ができた時間で扶桑社ミステリー・ブログを更新中。ツイッターアカウントは@TomitaKentaro。
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