第7回

 海外と日本の出版システムの大きなちがいとして、アドバンスと実売印税があるとご説明してきました。そしてその根本には、日本の再販制という、これまた大きな制度上のちがいがあったわけです。

 ところで、この出版および流通システムの差が、本の売りかたにもかかわってくるのです。

 繰りかえしになりますが、日本では印刷した部数で印税を計算するのが一般的です。

 ですから著者は、本ができあがった段階で、制作部数についての印税を確保することになります。本が売れ残って赤字が出たとしても、損失は出版社がかぶります。どんなに売れなくても、印税を著者が返還するなどということにはなりません。

 いっぽう、海外では売れたぶんだけ印税が支払われます。ということは、初版が制作された段階では、著者の印税収入はまだわかりません。

 もちろん、事前にアドバンスをもらっているわけですが、それを越える印税をどれだけ確保できるかは、出版後の本の売れ行きにかかってくるのです。

 書店の側は、再販制度や実質的な委託販売制度がないために、本を自力で仕入れなければなりません。そのため、どんな本をどれだけ仕入れるか、というバイヤーの目利きが重要になります。

 それに、売り値も書店の裁量で決められます(ネット書店でも、新刊をかなり割り引きしてますよね)。こういうことができるのも、再販制度がないからです。

 そして、仕入れたからには、売りきらなければなりません。売れない本は返品してかまわない日本とは事情が異なり、余剰在庫は店の負担になってしまいます。

 こういう仕組みによって、本の売りかたがずいぶんちがってくるというのですね。

 海外の作家は、マメにイベントをやりますね。全国をツアーのようにまわり、その土地のローカルTVやラジオに出演したり、地元の書店の一隅を借りて、サイン会や朗読会をします。

 まさに草の根の活動ですが、このように読者に直接アピールして、1冊でも多く売り、読んでもらうことが、著者の利益にも直結してくるのです。

 英米では、読書サークルや創作ワークショップなどの活動も盛んなので、作家とじかに触れあえる場は読者の側からも歓迎されやすいのでしょう。

 著者が来てくれることは、書店にとってもプラスです。参加者が本を買ってくれるだけではありません。そのようなイベントによって、書店が地域の文化活動の拠点にもなるのです。

 こうして、持ちつ持たれつというか、著者にとっても書店にとってもよい関係がなりたつわけです。

※ちなみに日本では、著者のサイン会というと、どうしても大規模になりがち。結果的に、お客さんにならんでもらい、つぎつぎにサインだけしていく形式になります。読者にしてみれば、せっかく著者本人に会えても、自分の番にちょっと言葉を交わせる程度。いっぽう海外の様子を見ると、地域の本好きが集まる会合という感じです。

 さて、海外の書店は、売れ残ってしまった本を安売りして放出したりします(日本でも、洋書売り場ではセール品をよく見かけますね)。ちょうど、スーパーマーケットで見切り品を売るのと同じで、これも再販制度がないためです。

 でも、「本を安売りする」というと、ちょっと抵抗がありませんか。

 ただ、かならずしも悪いことでもないのです。売れ残ってしまうよりは書店の利益を確保できますし、安売りして買ってもらえるなら、著者にとっても新たな読者を獲得することになるからです。

 と、こんなふうに書いてくると、なんだか日本国内よりも海外のほうを上に見ているように思われるかもしれませんが、そういう意図ではありません。システムのちがいを述べているのです。

 もちろん、海外のやりかたにもマイナス面はあります。たとえば、流通や小売のマージンが大きいこともあって、本の値段が日本にくらべて高めだったりします(だからこそ、安売りする余地があるわけですが)。ちなみに海外では、本の価格(2011/02/18 07:50時点)のうちの出版社の取り分は、半分程度だそうです。

 第3回で計算した日本の場合と、比べてみてください。

扶桑社T

扶桑社ミステリーというB級文庫のなかで、SFホラーやノワール発掘といった、さらにB級路線を担当。その陰で編集した翻訳セルフヘルプで、ミステリーの数百倍の稼ぎをあげてしまう。現在は編集の現場を離れ、余裕ができた時間で扶桑社ミステリー・ブログを更新中。ツイッターアカウントは@TomitaKentaro

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