翻訳昔話(その4)——でも、未来の話もすこし

年寄りの特権で昔話をしてきたけれど、わたしの人生もまだ二十年ほど残っている(と思う。たぶんね)。せっかくだから、今後のことにも触れておきたい。

 老後の夢がふたつある。

 ひとつは、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステラへの巡礼。クリスチャンじゃないけど、いいんですよね? じつをいうと、巡礼そのものよりも、途中のバールに寄ってイカの茹でたのを食べながら白ワインを飲むことに憧れている。友達に巡礼の話をすると、かならず「四国にしといたら?」という返事がかえってくるが、四国では讃岐うどんと日本酒になってしまう。やはりイカと白ワインがいい。……って、発想が罰当たり?

 もうひとつは、オリエント急行の旅。昨年『オリエント急行の殺人』を訳すチャンスをいただき、シドニー・ルメット監督の映画をなつかしく見直したり、オリエント急行のサイトをのぞいたりしているうちに、憧れがどんどん膨らんでいった。できることなら、着物を持参して、ディナータイムには薄紫の付下げなど着てみたい。昼間は泥大島にしよう。でも、列車に揺られながら狭いコンパートメントで着付けをしたら、ぐちゃぐちゃになってしまいそうな不吉な予感がする。

 ほかにも、やりたいことはいろいろある。

 日本刺繍。マンションの隣人が習っていて、すてきな作品を見せてもらうたびにためいきが出る。わたしは隣人ほど器用ではないけど、根気はあるから、訪問着や帯までは無理としても、半襟ぐらいなら挑戦できるかもしれない。

 アロマテラピー。短期の講座を受けて、たちまちハマってしまった。もうすこし時間ができたら、本格的に勉強してみたい。魔女になったような気分で、ちょっと楽しいかも。

 でも、その前に、あと五年ぐらいは翻訳の仕事を続けたい。何をやってもダメ人間だったわたしが、翻訳の世界に入ってようやく居場所を見つけることができたのだから。もうしばらく、この居心地のいい場所で生きていきたいと思っている。

山本やよい(やまもと やよい)1949年岐阜県生まれ。同志社大学文学部英文学科卒。主な訳書/サラ・パレツキーのV・I・ウォーショースキー・シリーズ。ピーター・ラヴゼイのダイヤモンド警視シリーズ。最近はメアリ・バログのロマンス物に挑戦。

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