1月の3都市連続読書会につづいて、去る5月13日に開催された第2回大阪読書会は、直前にご都合がつかなくなった数名の方をのぞいて、前回メンバーのほとんどが顔を見せてくださり、新たな参加者もくわわっての盛会となりました。

今回は13日の金曜日といういかにもミステリな日を選んだためか、なんと東京のキング祭りと同日開催ということに(汗)。シンジケート事務局の皆さんが来られなくて、ちょっと淋しい会になっちゃうのかなぁ……なんて思っていたら、なんのなんの、まったくの杞憂でした。1回めこそ「読書会ってなにを喋ったらいいの?(ドキドキ)」だった方々も、ナンデモアリだと心得た2回めはすっかりリラックス。しょっぱなから和気藹々とたくさんのコメントが行き交って、いやぁ、楽しい会になりました! 

今回のお題であるピーター・ラヴゼイ作品の翻訳を多数手がけておられる山本やよいさんから参加者へのメッセージもいただきましたし、2次会にはマイクル・コナリーなどの翻訳でおなじみの古沢嘉通さん、ミステリ書評家の福井健太さんも駆けつけてくださり、美味しいビールを飲みながら四方山話に花が咲きました。楽しすぎて帰りそびれ、午前様になっちゃった方もいたとかいないとか……皆さん翌日だいじょうぶでしたか?(笑)

さて、今回の課題書となったのは『偽のデュー警部』。英国本格ミステリーの巨匠、ピーター・ラヴゼイの代表作とも言える作品で、1983年の英国推理作家協会(CWA)賞ゴールド・ダガー賞を受賞しています。

ときは1921年。アメリカで大成功をおさめたチャップリンの凱旋帰国にロンドンじゅうが沸きたっていたその日、スコットランド・ヤード宛てに豪華客船モーリタニア号船長から一通の電報が届きます。「船上で怪死事件あり、スコットランド・ヤードのデュー主任警部に調査を依頼」——(いやいや、デュー警部といえば10年前の有名な船上事件の功労者だが、じっさいはうだつの上がらぬ男でとっくに引退していたはず。なんで今頃そんなことに?) そう、じつは客船に乗っていたウォルター・デュー警部は偽物で、実の名をウォルター・バラノーフといいました。資産家で舞台女優の妻リディアのおかげでしがない読心術師から歯科医に転身を果たし、順風満帆だった彼。しかし、年齢のせいか役がとれなくなったリディアが突然、アメリカに渡って映画女優になると言いだします。もちろんウォルターも同行させ、医院は売り払ってしまうと……。そのころ患者としてウォルターに出会い、すっかり熱をあげていた花屋の店員アルマは、彼をアメリカに行かせたくない一心で、リディアを亡き者にする計画を持ちかけます。豪華客船モーリタニア号にリディア1人を乗船させ、あとから偽名を使って乗船するウォルターとアルマですが……。

ここで、参加者の皆さんにお配りした山本やよいさんのメッセージを一部だけご紹介しておきましょう。

「(前略)初めてピーター・ラヴゼイを読んだのは、『マダム・タッソーがお待ちかね』でした。タイトルに惹かれて。原題の『Waxwork』より、この邦題のほうがすてきだと思いません? 読んでる途中で、「あれ、これってアガサ・クリスティーのあの作品と同じコンセプト?」って気がしました。やっぱりそうでした。これがすごくおもしろかったので、つぎに読んだのが、今回の読書会のテーマになっている『偽のデュー警部』なんです。いかにもラヴゼイらしい遊び心にあふれた作品だと思います(後略)」

メッセージとともに配られたラヴゼイの邦訳作品リストには、A3用紙にびっしり27点のラヴゼイ作品が並んでいました。このリストは参加者のおひとりが自主的に用意してくださったものです。定評のある歴史物から、ダイヤモンド警視シリーズのような現代物まで、作風もシリアスなものあり、今回のようなユーモアたっぷりのものありと、変幻自在。巨匠と呼ばれるにふさわしい多作で多才な作家ですね。

では、ストーリーを巡るおしゃべりの数々、ネタバレにならないよう、かつ、あれこれご想像を巡らせていただけるよう、ごく断片的に書き連ねてみるといたします。

まずは全体の印象として……

・もっと固い本を想像してました。とってもコミカルで意外だった!

・ミステリを知らないわたしが、これがミステリです、ってこの本を差し出されたら、ミステリ大好きです!って答えてしまうくらいに好みです。

・本格かと問われれば、もう間違いなく本格のジャンルなのだけれど、例えばエラリー・クィーンのような本格の代表的作品とは違って、突っ込みどころも満載かと(笑)

・登場人物が多く、構成も二重三重と複雑に組み立てられていて、騙されないよう2度めはメモを手に読むことに。

登場人物に言いたい放題……

・偽のデュー警部ことウォルター。これほどなんにもしないで、周りが勝手に解決してくれる謎解き役ははじめてかも。まぁ、偽物なんだからしょうがないけど。

・いったいこのウォルターという男、賢いんだか、そうじゃないんだか。

・夢見る夢子なアルマちゃん、あんな大胆不適なことを考えるだなんて。

・いや、アルマはえげつないよ(笑)

・アルマ視点で書かれていて、一緒にドキドキしていたせいですっかり騙されました!

・ウォルターって、ちょっと抜けててなんだかかわいらしい。登場人物みんな不完全な人ばかりで、かわいげがあって憎めないです。

・ポピーがとっても魅力的。彼女がヒロインの話を読みたいくらい。

時代背景についてもあれこれ……

・チャップリンや豪華客船、時代物が得意な作者とあって、冒頭のシーンは映画のシーンさながらに生き生きして魅了された。

・その時代をよく知らないせいで、読み逃している面白さが隠れてないか少し心配。

・アメリカで狂騒の20年代と呼ばれたこの頃、映画はサイレントからトーキーに移行しはじめて……。

・うーん、そう考えると、売れない女優リディアに対する見方が急に変わりそうです。

そして結末について……

・初読は20年以上前で、筋はあらかた忘れてしまい、ただエンディングにやられた気持ちよさだけを覚えてました。再読でまたしても楽しめました!

・ところでウォルターって、結局、本当に解決したのかなぁ?

・わからないけど、なんにせよ、ハッピーエンディングでよかった!

・あれれ? ブラックエンディングじゃなかったの?!

ラヴゼイ氏の知性溢れるすっとぼけぶりに最後の一行まで翻弄され、まずは皆さん、読書の楽しさを存分に味わうことができたのではないでしょうか。

ああだこうだと喋っているあいだに、気づけば2時間のタイムリミットが迫り、あっという間に次回のお題を決めなくちゃな時間に。こんどは1回め2回めと少々目先を変えて、現代の若きヒーロー、ニール・ケアリーくんの活躍するドン・ウィンズロウ『ストリート・キッズ』をとりあげることに決定しました。第3回大阪読書会は7月29日(金)に開催の予定です。皆さん、どうぞふるってご参加ください。

なお、会でも突っ込みのたくさん入った辺りについて、論創社『本棚のスフィンクス』で直井明氏が詳細に分析しているのを、メンバーの方がコピーして会場に持参してくださっていました。時間内に回し読みができず、別のメンバーの方が後日PDFに落としてメーリングリストに配信してくださることに。会終了後もふたたび余韻を楽しむことができ、嬉しいおまけに感謝しています。また、同じく話題に上がっていた「アルマお気に入りの恋愛小説は実在するのか否か」についても、さっそく調べてくださった方がいて、2冊とも実在すると判明。なんと一冊は『フランダースの犬』の作者が、売れっ子ロマンス小説作家だった頃の作品だったのだとか。へええ!

こんなかたちでメーリングリストによる活動もはじめている大阪読書会は、現在のところ会員26名。ただいま初心者向け読書会の別途開催を企画中で、それ以外にも雑談&飲み会オンリーの場も持ちたいと話しています。新規会員は随時募集中ですので、ご興味ある方は kanmys_dk2011@yahoo.co.jp まで、いつでもお気軽にご連絡くださいね。お待ちしています!

飯干京子(いいぼし きょうこ)1964年生まれ。大阪万博が開催された千里ニュータウンに育つ。北千里高等学校卒。訳書はグレッグ・ルッカ、アティカスシリーズの後期3部作など。ここ数年、小・中・高と同窓会の幹事ばかりやってます。

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