2023年10月14日(土)、ステフ・ブロードリブ『殺人は太陽の下で—フロリダ・シニア探偵クラブ―』(安達眞弓訳 二見書房)を課題書として、大阪翻訳ミステリー読書会を開催いたしました。3年半、いや正確には3年10カ月ぶりに、懇親会付きでフル開催することができました。

課題書の〈シニア探偵クラブ〉とは?

フロリダの高齢者向け住宅地で、若い女の死体が発見される。リタイアした人々が暮らす平和なこの地でなぜ? だが警察の動きは鈍い。そこで住人であるモイラ、リック、フィリップ、リジーが元刑事のキャリアを活かして捜査に乗り出す。
しかし、モイラには秘めた過去があり、一方でフィリップも妻のリジーに隠していたことがあった……。事件の真相は? 四人の関係はどうなるのか?

というミステリーで、YouTubeイベント〈第二回夏の出版社イチオシ祭り〉で、二見書房の山本さんからご紹介いただきました。山本さんは今回の読書会もゲストとして参加してくれました。

さて、大阪読書会の常連のかた、コロナぶりのかた、はじめましてのかた、全員が自己紹介を終えて本の感想へ。
まず提起された問題は、「58歳のモイラはシニアなのか?」
そもそも58歳はシニアなのか? という疑問にくわえて、物語のなかでモイラは犯人を追いかけて走りまわり、さらには激しく格闘するので、「シニアとは思えない」「シニアであることを忘れて読んだ」という声が多数。

〈シニア探偵クラブ〉というと、ヨボヨボの安楽椅子探偵を思い浮かべた人もいるかもしれませんが、58歳のモイラはもちろん、71歳のフィリップもまったく年寄り臭さがなく、いきいきしているのがこの小説の大きな特徴です。

今回の読書会にあたって、訳者の安達眞弓さんからコメントをいただきました。
コメントによると、「4人のそれぞれのキャラクターを考えながら口調を決めていくプロセスを楽しみました」とのこと。だからこそキャラクターの口調も行動もしっくり馴染み、読んでいるこちらも楽しくなるのだと納得しました。

しかし、最年長でも元気いっぱいのフィリップですが、その中身は典型的な〝昭和のおじさん〟。悪気はないけれど、誰に対しても上司のような口をきくので、モイラも少々うんざり気味。参加者のみなさんもフィリップに注目した人が多く、「フィリップの言動にもやもやした」「いわゆる老害」など、厳し目の感想もちらほら。なかには、「まわりにフォローしてもらっていることに気づかないフィリップにいたたまれない思いがした」と、まるで身内のような感想を抱いた人まで。

この4人のイメージについても、安達さんからコメントをいただきました。
まず、武闘派のモイラはシャーリーズ・セロンで、精悍なリックはなんと市原隼人(ちょっと若いですが)。良妻賢母とキャリアを両立したリジーはジュリアン・ムーアとのことでした。どれもハマリ役ですね。ただ、フィリップだけは思いつかなかったとのこと。

世話人Nも日本人俳優で考えてみたところ、モイラはアクションも似合う天海祐希。実は、いくらリックがイケメンといっても、68歳ならおじいちゃんなのでは? と思っていましたが、その年代の芸能人を検索すると、出てきたのは桑田佳祐や佐野元春。おじいちゃんではない! なので、リックは男前な熱い男、世良公則。リジーは芯の強い女性が似合う原田美枝子。

で、やはりフィリップはなかなか思いつかず、暫定で笑福亭鶴瓶にしました(映画やドラマで見せる、シリアス鶴瓶の方)。小太りで髪の薄い白人のおじさんのフィリップ役にお勧めの俳優がいたら教えてください。

山本さんに伺ったところ、本の表紙を作る際のモイラのイメージはサンドラ・ブロックだったそうです。たしかに黒髪で長身のモイラにピッタリですね。
この本が翻訳出版に至った経緯についても、山本さんから教えていただきました。あとがきにも記されていますが、作者であるステフ・ブロードリブはなんとバウンティーハンターの訓練を受けた経歴があり、バウンティーハンターを主人公とするデビュー作が高く評価されて、2018年の国際スリラー賞最優秀新人賞の最終候補に選ばれています。

そのほか、「これはコージーなのか?」「登場人物が地元の人ではなく、さまざまな場所からやってきているのでコージーらしくないけれど、そこがおもしろい」という意見もありました。4人のキャラクターが際立っているので、事件の経緯や真相よりも人間関係が気になった人が多く、「4人がそんなに仲良くないところがおもしろかった」という感想も。

〈フロリダ・シニア探偵クラブ〉シリーズは、原書では3作目まで出版されているので、4人の関係がどう変化するのか、住民たちは引き続き次作でも登場するのか、モイラの秘密は? など、次作を待ち望む声も多かったです。

最後は恒例のオススメ本コーナー。今回のテーマは「かっこいいシニアが登場する本」。
読書会の最中も何度も話に出たのが、みんな大好き〈ワニ町〉シリーズ。
シリーズものでは、〈アガサ・レーズン〉、都筑道夫〈退職刑事〉も挙がりました。
安達さんから薦めていただいた、87歳の元刑事が活躍するダニエル・フリードマン『もう年はとれない』 (野口百合子訳 東京創元社) もシリーズものですね。そのほかは、以下のとおり。

・天藤真『大誘拐』 (東京創元社)
・ロバート・ソログッド『マーロー殺人クラブ』
 (髙山祥子訳 アストラハウス)
・ヒロミ・ゴトー『塩とコインと元カノと』
 (アン・ズー画, ニキリンコ訳 生活書院)
・リチャード・オスマン『木曜殺人クラブ』(羽田詩津子訳 早川書房)
・永井みみ『ミシンと金魚』(集英社)
・田辺聖子『姥ざかり』(新潮社)
・ク・ビョンモ『破果』(小山内園子訳 岩波書店)
・バロネス・オルツィ『隅の老人の事件簿』(深町眞理子訳 東京創元社)

こうやって見てみると、フィクションの世界でもシニアは大活躍しています。現実においても、70代で現役バリバリなのはいまや当たり前で、最近では80代のThe Rolling Stonesが新譜を発表して話題を呼びました。
ということで、58歳のモイラはまだまだ真のシニアではない! という結論に至りました。

そう、この『殺人は太陽の下で—フロリダ・シニア探偵クラブ―』や上記の推薦本を読むと、年をとるのも怖くない!! ……たぶん、怖くなくなる、かも……いや、きっと、怖くないはず……と確信した読書会でした。

次回の大阪読書会は来年の2月頃に対面で行う予定ですが、オンラインのスピンオフなどもできたらいいなと考えております。X(旧Twitter)などで告知いたしますので、お気軽にご参加ください。

大阪翻訳ミステリー読書会世話人:
信藤 玲子 (twitter アカウント:@RNobuto