【前編はこちら】
そして一ヶ月と少し経った4月5日、ついに50冊目を販売しました。冗談交じりに「このまま三桁いってしまえ!」と盛り上がっていたこの時、私は当店を担当している本部社員にメールを送りました。実は初動一週間の段階で反応がいい旨を伝えてあり、その際「一ヵ月後また報告してください」と返答があったのです。
当店だけで終わりにしたくありませんでした。だから本部に掛け合い、同系列の店にお勧め報告をしてくださるだけでいいから、何がしかの動きにしたかったのです。幸運なことに、実はその本部社員は翻訳ミステリ好き!(ブラウン神父だのケッチャムだのと盛り上がったことが……)そして、「ちょっと動いてみます!」とのお返事を頂きました。
要望があったので自作のPOP各種を本部に送り、店ではコピーを加工しなおして、さあこれから、という頃、楽あれば苦あり、光あれば影あり、不穏な空気が漂ってきました。
系列本社の視察です(動いてくれている本部とは別企業)。これがとにかく口うるさいことこの上ない。規格外の棚は置くなとかPOPのサイズをあわせろとか商品は決められた通りに置けとか、ああっ!……失礼しました。とにかく、『死刑囚』を陳列していたテーブルの撤去を命じられたのです。あ、数字とか見ないですよね、わかります。私は所詮しがない一店員ですから、上の命令は聞かないといけません。でもここで折れたら漢が廃る。
「次長、“テーブルを”撤去すればいいんですよね?」
「そうだよ猫谷さん、“テーブルを”撤去すればいいんだ」
どこの一休さんか。
ぎゅうぎゅうと新刊たちを押しやって『死刑囚』は新刊台そのものに平積みされることに。気になる売上には影響なし!でした。
日は過ぎて5月11日、ついに本部から系列店にメールがきました。売れないイメージを払拭せんと気合の入った資料と共にいわく、「『死刑囚』が(うちの店)で売上良好、取りまとめました。平積みするように」。配本は10冊から30冊、店舗数は都内の強豪店を含めた計22店です。
その後20冊追加して50冊にした店舗も、資料を読んで名乗りを上げてくれた店舗も3つあり、最終的には25店で、本が入荷する5月22日頃より展開となりました。
本当に嬉しかったです。この先は、各店の担当者の手腕に委ねられます。私はなんだかリレーのバトンを渡したみたいな、少しの疲労と清々しさを感じました。
そして展開から満3ヶ月が過ぎようという5月末。99冊目を販売しました。ついに三桁目前!!しかし、さすがに初動に比べて動きが鈍くなっており、あと一冊がなかなか売れません。数字に変化なしのまま2日過ぎ、3日過ぎ、4日が過ぎた、5月29日。
ついに『死刑囚』総売上100冊突破っ!!!最後の一冊が売れました。
残念ながらこの日私は出勤していなかったので、どなたが購入したのかは分かりません。あー、でももしレジ担当していたら、抱きついてしまっていたかも。うん、逆によかった。
ちなみに他店の売り上げもなかなか良好なようで、二週間経った現在既に合計160冊に達しています。関東甲信越の各地にあるので、運がよければ見られるかも!?
気になる購入層は、全体的に40代以上が多かったですが、男性はどの年代でもOKな様子。私がレジを担当した中で一番若かったのは、ひとりでぶらりとやって来た、学生服姿の男子高校生でした。(この時の嬉しさと言ったら……!)
さて、そろそろ結びます。随分長くなってしまいました。稚拙な文にもかかわらず、ここまでお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございます。
ついついカウントしてしまうのですが、現在も販売を続けていて104冊です。そしてあらためて、本当に色々な要素が絡み合ったなと痛感しています。
<書評七福神>の、あの魅力的な紹介がなければ読まなかったかもしれない。そして私の無謀ともいえる主張を上司が聞き入れてくれて、取次が入荷させてくれて、本部の人が翻訳好きで、他店の担当者が共感してくれなければ、こうはならなかったはずです。
なによりお客様が興味を持ってくれたこと。そう、ちょうどこれは、未曾有の大災害に見舞われた時期に重なってもいるのです。大きな余震と停電が続く中、店に足を運び、本を買ってくださった方が大勢いらっしゃることに、言葉にならない思いが溢れてきました。
そして『死刑囚』そのもののパワー。嬉しかったことの一つに、前作『BOX21』もかなり売れたことが挙げられます。気に入ってくださった方がいたんですね、きっと。
最後に叫びます。面白い本に、国内も海外もないっっ!!!!!
これからも、翻訳ミステリ配本0が並ぶリストを見て地団駄踏むと思います。現実と理想にギャップを感じて、途方に暮れることもあるでしょう。でも今、店のすぐ近所で、この町の104人の手が『死刑囚』を持っているところを想像すると、まだまだがんばれる気がするのです。
◇猫谷書店(ねこやしょてん)関東の某所にある書店に勤務する、翻訳ミステリ愛の書店員です。実は書店員と呼ばれるとサブイボが立つ偏屈人。でも通じやすいから使います。好きな作家はボストン・テラン、ヒラリー・ウォー、スティーヴン・ドビンズと挙げればきりがありません。結構<スレイディスト>。ツイッターアカウントは@necoyasyoten。 |