第25回 またも主役が交代した『CSI』の人気は?
   てか、3シリーズ計6人の主人公のうち、誰が一番好き?

 ども、kindleにたまってる原書を読むのに手一杯で、全然和書が読めないでいる堺です。というか、新しいkindleがあまりに軽くて小さいので、ついつい外出時は紙の本を持つのが面倒になって、kindleだけ持ってでるようになっちゃってるのでした。フォントの大きさを変えられるから、老眼にも優しいですしね。ソニーのリーダーもあれくらいのサイズと値段になってくれんもんかなあ。

 そんなことはさておき、今回は日本でも人気が高い大ヒットシリーズ「CSI:科学捜査班」を取り上げたいと思います。

 今さら説明するのもなんですが、「CSI:科学捜査班」は、アメリカ最大の歓楽街ラスベガスを舞台に、地元警察の鑑識班が最新の科学技術を駆使して、凶悪犯罪を解明していくというミステリドラマです。

「CSI:科学捜査班」は、2000年の秋から全米で放送が始まりました。シーズンが進むにつれて人気はうなぎ登りとなり、その勢いに乗じるように、2002年からは「CSI:マイアミ」、2004年からは「CSI:ニューヨーク」という2つのスピンオフ番組が始まり、2011年秋現在、いずれのシリーズも継続中という長寿人気シリーズとなっています。

 これら「CSI」ファミリーの成功がきっかけとなり、アメリカのテレビドラマ界には「科学捜査もの」や「特殊捜査もの」がそれこそ雨後の竹の子のように次々と誕生、それぞれに人気を博するようになり、2000年代のアメリカテレビドラマの大きな潮流を作ったことは、海外ドラマファンには記憶に新しいところでしょう。

「クリミナルマインド」(プロファイリング)、「ナンバーズ」(数学)、「ボーンズ」(法医学)、「ライ・トゥ・ミー」(キネシクス)、「ザ・メンタリスト」(コールドリーディング)といった科学捜査や心理学捜査ものはもちろん「FBI失踪者を追え」(失踪人捜索)や「コールドケース」(未解決事件再捜査)といった「特殊捜査もの」も、この流れの中から生まれたものだと言っていいと思います。

 私見ですが、「CSI」がここまでの人気を得た理由は2つあります。

 一つには「鑑識」という「科学捜査」に焦点を当てたこと。小説の世界では、すでにパトリシア・コーンウェルジェフリー・ディーヴァーが法医学や鑑識を扱った作品を書いてベストセラーになっていました(そして、それはオースティン・フリーマンアーロン・エルキンズといった先駆者たちの伝統の上にあるわけです)が、テレビの連続ドラマで鑑識班をがっちりと主役に据えたところが新しかったわけです。

 もう一つは、2001年に起こった9.11同時多発テロの影響です。

 それ以前の1990年代、アメリカのテレビドラマの主流は、多彩な人間関係と、善悪を割り切れない複雑なストーリーを基調とし、一話完結よりも物語の連続性を重視した作品でした。これは、1980年代から続いていたもので、90年代には「ER」を筆頭に、ミステリにおいても「NYPDブルー」「ホミサイド/殺人捜査課」など、物語のリアリティを追求した作品が人気を得ていました。

 これらのドラマでは、一話の中でいくつものエピソードが同時に語られ、一つずつのエピソードは次の回やもっとあとの回まで解決しないで続いていくというところに特徴がありました。それはまさに「現実の人生を模する」とも言えるようなものでした。

 それが、「CSI」のヒット以降、上にも書いたように一話完結型の謎解きミステリドラマが、一気にテレビドラマの主流に返り咲いたのです。

 私が思うに、あの頃、アメリカの人々の多くは、単純明快なストーリーを求めたのではないでしょうか。

 悪の正体が判然としないまま、怒りにまかせて戦争に突入してしまったアメリカという国の人々は、せめてテレビの中では、正義と悪がはっきりと科学の力で解明される、明快なドラマを欲していたような気がしてならないのです。

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 そんな「CSI」ですが、長寿シリーズの常として、レギュラーメンバーがたびたび交代しています。

 主役も、第1シーズンから第9シーズン途中まではウィリアム・ピーターセン演じるギル・グリッソムだったのですが、その後はローレンス・フィッシュバーン扮するレイモンド・ラングストンと交代しました。

 そして、この秋から放送が始まった第12シーズンからは、そのラングストンに代わって、ベテランテレビ俳優のテッド・ダンスン演じるD・B・ラッセルが、新主役として登場したのです。

 第7シーズンの途中で、長期休暇に入ったグリッソムの代わりに四話だけ登場したマイケル・ケプラー(演じるはリーヴ・シュレイバー)も合わせると、「CSI」には主役が4人もいるわけです。

「CSI:マイアミ」のホレイショ・ケイン(デイヴィッド・カルーソ)、「CSI:ニューヨーク」のマック・テイラー(ゲイリー・シニーズ)まで含めちゃうと、「CSI」シリーズの主役は6人になっちゃうんですけど、皆さんは誰が一番好きですか?

 私は……やっぱ一番変人、もとい、おたく、もとい科学者っぽいグリッソムさんがいいかなあ。

 さて、鑑識や法医学を扱ったミステリと言えば、上でも挙げたパトリシア・コーンウェルケイ・スカーペッタものが有名ですが、その中の1作のタイトルにもなった「死体農場」(研究のために提供された死体をさまざまな条件の下にさらし、その様子を研究する施設)が実際に存在することはご存じでしょうか?

 この死体農場を作り上げたアメリカ法人類学の伝説的存在、ビル・バスが書いたノンフィクション『実録 死体農場』は、淡々とした筆致で書かれていて、実に読みやすい入門書になっていてお勧めです。

 ちなみに、バス博士は、この本の共著者ジョン・ジェファーソンと一緒に、ジェファーソン・バス(なんとゆー安易な名前(笑))というペンネームで法医学ミステリを何冊も書いてたりもするんですけど……翻訳はされないだろーなー。

〔挿絵:水玉螢之丞〕  

「CSI」第12シーズンの、テッド・ダンスン扮するD・B・ラッセルの初登場シーン

堺三保(さかい みつやす)

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1963年大阪生まれ。関西大学工学部卒(工学修士)。南カリフォルニア大学映画芸術学部卒(M.F.A.)。主に英米のSF/ミステリ/コミックについて原稿を書いたり、翻訳をしたり。もしくは、テレビアニメのシナリオを書いたり、SF設定を担当したり。さらには、たまに小説も書いたり。最近はアマチュア・フィルムメイカーでもあり(プロの映画監督兼プロデューサーを目指して未だ修行中)。最新刊『キャプテン・アメリカ:ウィンターソルジャー』(小学館集英社プロダクション)。

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