第29回 こんなにゆるくていいのかというくらい、ゆる〜〜いコメディ『サイク/名探偵はサイキック?』

 あっという間に今年も杉花粉の季節がやってきました。重度の花粉症である私は、すでに毎日薬を飲まないと日常生活が営めない感じになってきております。あー、これが5月半ばまで続くんだよなあ。とほほ。

 今回は、そんな鬱陶しい杉花粉とは縁のない、年中暖かなカリフォルニア州はサンタバーバラを舞台に繰り広げられる探偵コメディ、『サイク/名探偵はサイキック?』をご紹介したいと思います。

 主人公のショーンは、見たものを一瞬にして鮮明に記憶できるいわゆる映像記憶能力と、抜群の推理力とを持つ青年。

 ひょんなことから、その力でとある事件の謎を解いたショーンだが、なにせあまりに突拍子もないもので、誰も信じてくれない。そこで彼は、自分は「サイキック(霊能力者)」であり、事件の謎も霊能力で解いたのだと警察に訴えることに。

 半信半疑でショーンの言うとおりに捜査した警察は、見事に犯人を逮捕、彼を民間協力者として採用することになってしまう。

 かくして、サイキック探偵として認定されちゃったショーンは、日々、難事件を(あくまでサイキックのふりをしながら)解決するようになったのだった……。

 というのが『サイク/名探偵はサイキック?』の基本設定。いくらコメディとはいえ、かなりメチャクチャな設定であります(笑)。

 これって、アメリカで大人気の『メンタリスト』とよく似てるようで主人公の立ち位置がちょうど逆さまなんですよね。ちなみに、放送開始は、こっちのほうが先であります。

 日本全国津々浦々、占い師の皆さんがおられるのと同じくらい、アメリカにはサイキックの看板を掲げてる人たちが大勢います。

 その中には「警察の捜査に協力している」と主張している皆さんもおられたりするわけで、テレビドラマ『ミディアム 霊能捜査官アリソン・デュボア』なんかは、まさにそう主張する実在の人物をモデルにしていたりします。

 占いが「当たるも八卦当たらぬも八卦」を基本としてるのに比べると、サイキックのお告げは真実を装ってるぶん、たちが悪いとも言えます。

 本作は、そういうあたりを皮肉った、ちょっと意地悪なコメディということも言えなくはないでしょう。

 ……つっても、本編はかなりゆるーーいおバカなコメディなんで、『メンタリスト』や『ミディアム』とはジャンルが違うというか、比べたら相手がかわいそうな感じではあります。

20120402163745.jpg

 ちなみに、おじさん的には、キャストで誰が良いかというと、本作で一躍テレビの人気者となったショーン役のジェームズ・ロデイや、いつのまにか相棒として毎回捜査につきあわされる羽目になる幼なじみ役のデュレ・ヒル(『ザ・ホワイトハウス』で生真面目な黒人青年を熱演してた人。本作では、日常ではツッコミ、捜査ではボケ担当の、漫才の相方です)よりも、ショーンの父親役で毎回チラッとだけ出てくるコービン・バーンセン(オールドファンにはお馴染み、80年代、「LAロー/七人の弁護士」のプレイボーイ弁護士役で一世を風靡した人)でしょう。何とも言えぬ老け具合が泣けて泣けて。

 さて、サイキックが主人公のミステリというと、私みたいなロートルは、真っ先にディーン・R・クーンツの出世作『悪魔は夜はばたく』が脳裏に浮かびます。

 が、今、クーンツの作品で、というか、アメリカ出版界で一番有名な霊能者ものといえば、なんといっても死者の霊と会話できる青年を主人公とした《オッド・トーマス》シリーズでしょう。クーンツ作品なもんで、ミステリと言うよりは、モダンホラーなわけで『サイク』とは全然タイプが違う作品ですが。

 すでに『オッド・トーマスの霊感』『受難』、『救済』、『予知夢』と、既刊分は翻訳もすべて出ているわけですが、このあとどうなるかが気になって仕方ないというのに、ここ数年、全然続きを書いてくれないんだもんなあ、クーンツも。

 とはいえ、ネットで検索してみたところ、ついに、続編の Odd Apocalypse が今年の夏に、待望の完結編 Deeply Odd も来年にはアメリカで刊行される予定ということなので、ファンとしてはじりじりしながら待っているところだったりします。というか、未読の方は、今からでも充分間に合いますぞ!

〔挿絵:水玉螢之丞〕  

ただいま日本でも放送中。『サイク』シーズン2の公式ホームページ

http://www.universalchannel.jp/series/psych2

『サイク』第6シーズンの予告編

堺三保(さかい みつやす)

20061025061000.jpg

1963年大阪生まれ。関西大学工学部卒(工学修士)。南カリフォルニア大学映画芸術学部卒(M.F.A.)。主に英米のSF/ミステリ/コミックについて原稿を書いたり、翻訳をしたり。もしくは、テレビアニメのシナリオを書いたり、SF設定を担当したり。さらには、たまに小説も書いたり。最近はアマチュア・フィルムメイカーでもあり(プロの映画監督兼プロデューサーを目指して未だ修行中)。最近の仕事はテレビアニメ『エウレカセブンAO』のSF設定。最新刊は『WE3』(小学館集英社プロダクション)。

ブログ http://ameblo.jp/sakaisampo/

フェイスブック http://www.facebook.com/m.sakai1

ツイッター http://twitter.com/Sakai_Sampo

●AmazonJPで堺三保さんの著訳書を検索する●

【毎月更新】堺三保の最新TVドラマ・映画事情【USA】バックナンバー