第33回 番外編:ちょいとロサンゼルスまで出かけてきます

 えー、突然ですが、またもアメリカに移住します。というか、この原稿がネットにアップされる頃には、ロサンゼルス郊外のトーランスという町に住んでいる予定です。次回からは、ハリウッドの現地情報なんかもお届けできればいいなあ、とかも思っております。

 移住の目的は、ずばりアメリカで映画やテレビの仕事に就くことなんですが、なんせまあ、我ながら夢のような話なんで、さて上手くいきますかどうか、まったく予断を許しません。なんせ、あてもコネも全然ないもんね(笑)。

 とはいえ、元々、2007年から2010年まで私がUSCの映画芸術学部に留学したのも、映画製作の技術を学ぶだけではなく、映像作家としてアメリカ進出するための地歩作りという狙いもあったわけで、USC卒業が計画の第1段階終了だとすれば、ここからが本格的な目標達成のための第2段階のスタートだと言うこともできます。

 だいたい、留学しようと決めたときも、全然合格するあてなんかなかったし、合格したあとも卒業するまでほんっとにいろいろうまくいかなくて苦労したけど、まあ、なんだかんだでとりあえず卒業にこぎつけることはできたんで、この先も、じたばたしてたらそのうちなんとかなるだろう、などと楽観的なことを考えてたりして(ま、まずいかな)。

 というわけで、今回はそんな私の気分に合わせた特別編をお送りします。

 ミステリでも新作でもありません。「ドーソンズ・クリーク」という、ちょっと前の青春ドラマ(1998〜2003年)を紹介したいと思うのです。

 このドラマは、アメリカの東海岸にある小さな田舎町を舞台に、スティーヴン・スピルバーグに憧れて育ち、映画監督をめざしている高校生、ドーソンくんと、その友人たちの若き日々と成長を描いた青春ものです。

 ドーソンの幼なじみであるヒロイン役に現トム・クルーズ夫人のケイティ・ホームズ、無二の親友である悪ガキに「FRINGE」のジョシュア・ジャクソン、都会から引っ越してきた美人転校生に「マリリン/7日間の恋」のミシェル・ウィリアムズと、その後活躍する俳優たちが多数出ているところが見どころの一つでもあります。

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 でも、映画ファンであり、自身もアメリカで仕事をしたいと考えている私にとって、本作最大の魅力は、なんといってもジェームズ・ヴァン・ダー・ビーク(メインキャストの中で彼だけいまいち伸び悩んでいるのがちょっとわびしいところです)演じる主人公のドーソンくんが、とにかく真摯に映画監督をめざす姿だったりします。すごく共感しちゃうんですよね。

 ドラマは6シーズンあり、中盤以降は、登場人物達もみんな高校を卒業して、ある者は働きだし、ある者は大学に進学していくのですが、その中でドーソンは、最初第一志望だったロサンゼルスの有名大学の映画学部(たしか、私も留学していたUSCに受かったという設定だったはず)に受かって、西海岸に引っ越します。

 そして、大学に通うだけでなく、さっそく大きな映画会社のインターンになって、撮影現場で働き出すのですが、その中で、間違っているとしか思えない指示を繰り返すスタッフと衝突、結局インターンだけでなく、大学も辞めて、故郷の近くにある東部の小さな大学の無名の映画学部に転校してしまうのでした。

 結局ドーソンは、そこで自分の思い通りに映画の勉強を続け、自主製作映画を撮り続けたおかげで、卒業後、自分たちの高校時代を元にしたテレビドラマを製作、ハリウッドの新進クリエイターとなったところで、ドラマは終わります。

 高校時代からの友人達と、自作のドラマについて電話で話しているドーソンが、「明日、誰と打ち合わせすると思う? スピルバーグなんだ」と笑うラストシーンには、感動で思わずグッときてしまったものです。

 実は、このドラマ、クリエイターであるケヴィン・ウィリアムソン(映画「スクリーム」で一躍有名になった脚本家の人)の半自伝的要素もあるとかないとか。

 最終回のラストシーンは、主人公のドーソンとウィリアムソン本人とがけっこう重なってしまっているのかもしれません。

 実のところ、私もこのラストシーン見直しては「がんばろう」と思ってたりして(苦笑)。

 いや、本筋はあくまでも甘く切ない若者たちの青春群像劇なんですけどね。

 日本ではテレビでは最終回まで放送されたものの、DVDは第1シーズンまでしか発売されていないという、ちょっと残念な作品でもあります。どこかの局で再放送してるのを見かけたときは、ぜひチェックしてみてください。

 さて、さすがに小説の話題は、ちょっとミステリの話題に戻りましょう。私が住むロサンゼルスというところは、ハリウッドを擁する映画の都であるのはもちろんのこと、レイモンド・チャンドラーの小説に登場する私立探偵フィリップ・マーロウや、テレビドラマの名探偵コロンボ警部といったキャラクターたちが活躍する、ミステリの都でもあります。

 現役のミステリ作家の作品でいうと、本連載でも紹介した、ジョゼフ・ウォンボーの《ハリウッド警察》シリーズ、ジョナサン・ケラーマンの《アレックス・デラウェア》シリーズ、フェイ・ケラーマンの《ピーター・デッカー&リナ・ラザラス》シリーズ、マイクル・コナリーの《ハリー・ボッシュ》シリーズ、ロバート・クレイスの《エルヴィス・コール》シリーズといったあたりが有名どころでしょうか。

 いずれの作品も、登場人物たちだけでなく、ロサンゼルスの街そのものが、個性豊かに描かれているあたりが特徴の一つであり、読みどころだと言えるでしょう。

 なんせロサンゼルスといえば、人口は、市内だけで384万、周辺の市も含めた都市圏となると1763万人という、ニューヨークに次ぐアメリカ第二の都市であり、経済規模では東京、ニューヨークに次ぐ世界第3位という大都市です。一方で、ありとあらゆる人種が住む人種のるつぼであり、犯罪が多発する危険な都市でもあります。すなわち、きらびやかな光の部分と危うい影の部分とを併せ持った、まことにもってミステリの舞台にもってこいの街なのです。

 次回からは、そんなロサンゼルスの街の雰囲気も、ちょっとずつお伝えしていけたらなあ、などと思いつつ、今回はこのへんで。

 ではまた〜。

〔挿絵:水玉螢之丞〕  

「ドーソンズ・クリーク」第1シーズン・オープニング。みんな、若い!

「ドーソンズ・クリーク」第6(最終)シーズン・オープニング。みんな、大人になりました。

堺三保(さかい みつやす)

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1963年大阪生まれ。関西大学工学部卒(工学修士)。南カリフォルニア大学映画芸術学部卒(M.F.A.)。主に英米のSF/ミステリ/コミックについて原稿を書いたり、翻訳をしたり。もしくは、テレビアニメのシナリオを書いたり、SF設定を担当したり。さらには、たまに小説も書いたり。最近はアマチュア・フィルムメイカーでもあり(プロの映画監督兼プロデューサーを目指して未だ修行中)。最近の仕事はテレビアニメ『エウレカセブンAO』のSF設定。最新刊は『WE3』(小学館集英社プロダクション)。

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