第40回 殺人カルト集団の恐怖がキョーレツな『ザ・フォロウイング』

 今回は、2013年1月にアメリカで放送がスタートしたばかりの最新作にして、すでに話題騒然のスリラー『ザ・フォロウイング(The Following)』をご紹介したいと思います。

 物語は、10年前に連続殺人で逮捕されたシリアルキラー、ジョー・キャロルが、看守たちを惨殺、刑務所から脱走するところから始まります。

 このキャロルのキャラがえげつない。元大学の英文学教授で、専攻はエドガー・アラン・ポーというバリバリのエリートでありながら、自作の小説が批評家たちに酷評され、全く売れなかったことにぶち切れ、ポーの小説にちなんで女性を殺しては両目をくりぬいて回るようになったという、狂気の鬼才なのです。

 しかも、教授時代から、人を惹きつけるカリスマに溢れていたキャロルは、獄中にいた十年のあいだ、密かに外部と連絡を取り、自分のファンたち(現実に、凶悪な殺人犯には、犯罪マニアのファンがたくさんいるんだとか)のあいだから、素質のある連中を選んでは洗脳、配下のシリアルキラー軍団を作り上げていたのです(つまり、本作タイトルの『ザ・フォロウイング』というのは、フォロワー(信奉者)たちがキャロルを崇拝するさまを指していると思われます)。

 かくして、満を持して脱走したキャロルは、かつて自分を捉えたFBIの元捜査官、自分と別れた妻、自分が殺しそこなった最後の被害者、そして全世界に向けて、壮大な復讐を開始したのでした。

 まさに、『羊たちの沈黙』の殺人鬼ハンニバル・レクター博士と、現実の殺人カルト集団マンソン・ファミリーのチャールズ・マンソンを組み合わせたような、テレビドラマ史上でも最悪の悪役の一人だと言えるでしょう。

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 一方、この恐怖の殺人鬼集団と対決する羽目に陥るのが、キャロル逮捕時に胸を刺され、ペースメーカーを埋め込むことになって、FBIも引退してしまった元凄腕捜査官のライアン・ハーディ(演じるは、これがテレビ初主演となる、かつての青春スター、今はくせ者映画俳優のケビン・ベーコン)。

 今や心身の痛みから逃れるため酒浸りとなっているハーディですが、キャロルについて詳しいということで、アドバイザーとしてFBIに呼び戻されます。

 ところが彼は引退後、キャロルの事件について書いた本がベストセラーとなっており、しかも、キャロルの元妻とも親しくなってしまっていたりもしていて、キャロルに恨まれまくっていたのでした。

 キャロルが配下の殺人鬼軍団を操り、全米を恐怖に陥れようとするのも、すべてはハーディを翻弄し、彼に苦しみを与えるためでもあったのです。

 キャロルはハーディに、

「さあ、物語の始まりだ。キミはこの話のヒーローだ。ヒーローは悩み、苦しみ、目の前の障害をクリアしていかねばならない。これは私の会心の作となるだろう」

 てなことを告げるのです。

 かくして幕を開ける惨劇の数々。

 キャロルのある信奉者は、自らの全身にポーの文章を書き込み、おのが目にナイフを突き立てて、ハーディたちの目前で自殺します。

 別の信奉者は、近所の犬をさらっては殺して練習を積んだあげく、警官を装って若い女性の家に入り込み、居住者を皆殺しにします。

 そして、ある信奉者は、ポーのマスクをかぶって街中に現れ、ガソリンを犠牲者に振りかけて火をつけて焼き殺します……。

 いやもう、毎回毎回、次々に目を覆わんばかりの光景が繰り広げられるのです。ほんとにこれはテレビドラマなのかと、我が目を疑う展開なのでした。

 しかも、殺し方がいちいち、「大鴉」「黒猫」「告げ口心臓」など、ポーの作品にどこかしら絡んでるところがまた、えげつない。きっとそのうち「赤死病の仮面」とか「落とし穴と振り子」とかも出てくるんだろうなあ。

 ところが、このドラマが恐いのは、これら殺人シーンよりも、「誰がキャロルの信奉者かわからない」という不安感にあるのです。

ハーディ以外、登場人物たちの誰が実は殺人鬼なのか、そして誰が次の犠牲者になってしまうのか。それがまったく予測がつかないという恐ろしさが、どんどんハーディを苦しめていくさまを、視聴者も息苦しいほどに追体験してしまうところが、一番恐いのです。

 本作のプロデューサーかつ原案者であるケビン・ウィリアムスンは、自己言及に満ちた現代的な殺人鬼スリラー映画『スクリーム』のシナリオを書いて華々しい注目を浴び、その後もテレビドラマ『ドーソンズ・クリーク』『ヴァンパイア・ダイアリーズ』などでヒットを飛ばしている才人です。

 本作はそんな彼が、久々に得意のスリラーものに挑み、がっちり作り込んだ野心作。ファンには見逃せない一本だと言えるでしょう。

 ま、テレビ局(FOXなんですけど)としては、この春にテレビ放送が始まるという『ベイツ・モーテル』『サイコ』の前日譚)や『ハンニバル』(小説や映画の『ハンニバル』ではなく、『ハンニバル・ライジング』『レッド・ドラゴン』のあいだの話だとか)に対抗して、一足先に殺人鬼スリラーをぶつけて視聴者を獲得してしまおう(でもって、あわよくば、他局の類似作品をつぶしちゃおう)という腹づもりなのでしょう。

 何が恐いって、アメリカのテレビドラマ界の、この手の熾烈な戦いっぷりが一番恐かったりして。

〔挿絵:水玉螢之丞〕  

『ザ・フォロウイング』予告編

堺 三保(さかい みつやす)

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1963年大阪生まれ。関西大学工学部卒(工学修士)。南カリフォルニア大学映画芸術学部卒(M.F.A.)。主に英米のSF/ミステリ/コミックについて原稿を書いたり、翻訳をしたり。もしくは、テレビアニメのシナリオを書いたり、SF設定を担当したり。さらには、たまに小説も書いたり。最近はアマチュア・フィルムメイカーでもあり(プロの映画監督兼プロデューサーを目指して未だ修行中)。最近の仕事はテレビアニメ『エウレカセブンAO』のSF設定。最新刊は『WE3』(小学館集英社プロダクション)。

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