こんにちは、武藤崇恵です。

 さて、最終回となりました。お名残惜しいですが、予告しましたとおり、夏の夕方にぴったりのカクテル二種をご紹介いたします。

 なにを隠そう、我が家のベランダには鉢植えがひしめきあっておりますが、不思議なことにすべて食べられるものばかりです。いつの日か、バラの栽培などに着手したいと夢見ておりますが、現世では無理かもしれません。

 それはさておき、料理にちょっとだけ使いたいハーブ類が多いのですが、水をあげるだけで、そのうえ旅行で留守をするあいだは放置していても、越冬してくれたのはミントだけでした。強いとは聞いていましたが、これほどとは思わず、わたしのなかではミント愛がふくらんでおります。

 というわけで、感謝の気持ちを込めてミントのカクテルをご紹介したいと思います。

 まずはタラの大地が感じられる、ミント・ジュレップを。ミントならばスペアミント、ペパーミント、なんでもいいので用意してください。あとはお好きなバーボン、ソーダ、砂糖かシロップ、クラッシュト・アイス、必要なのはそれだけです。まずはミントの葉を細長いグラスの底に入れ、長いスプーンかなにかでつぶします。これでぱぁっと香りが立つので、勢いよくガシガシとつぶしてください。全体がミント色になるよう(バーボンの茶色に負けないよう)、ここは贅沢にたっぷりと使いましょう。そこにバーボン、ソーダ、砂糖かシロップをお好みの量加え、クラッシュト・アイスを抛りこめばできあがりです。グラスにミントの葉をあしらうとすてきですね。聞いたところでは、ケンタッキー・ダービーには欠かせない飲み物だそうで。たしかにおしゃれした女性たちが手に持っていてもさまになります。

 バーボンが夜のお酒であることは論をまたないと思いますが、これはミントのせいか、わたしにとっては夏の夕方、一日の仕事を終え、のんびりと夕涼みしながら楽しみたい一杯です。みごとな夕焼けが見られたりすると最高ですね。長野の山奥で至近距離に熊が現われ(さいわい高いベランダにいたので難を逃れました)、通報だなんだの大騒ぎのあとでみんなで乾杯したのも楽しい想い出です。自慢ではないですが、熊は何度も(かわいい子熊まで!)目撃していますし、日本カモシカも何度か。狐、狸、兎はあたりまえで、オコジョにいつかお会いしたいと夢見ております。しかし先日、東京で鷹を目撃したというお話をうかがい、負けたと膝をつきました(いや、勝ち負けじゃないのは重々承知しておりますが……)。

 おつぎはヘミングウェイも愛飲したというモヒート(mojito) です。学生時代、スペイン語のJの発音の仕方を知らず、バーでモジートと注文して赤っ恥をかいたのも、いまとなっては懐かしい想い出です。そのおかげで生涯忘れえぬカクテルとなりました。上記のバーボンをラムにするだけなので、笑っちゃうくらい簡単です。

 ふと気づけば、お酒の話に終始しただけで、もう終わり??と狼狽しております。燻製は駆け足で。ベーコンは時間がかかるだけで、面倒はなにもないので、ぜひ挑戦してみてください。塩、砂糖、スパイスをまぶした巨大バラ肉をジップロックに入れて冷蔵庫にしまい、滲みでる水分だけはこまめに捨てて一週間ほど塩漬けにします。この肉塊(二キロ以上になると、こう表記したい迫力です。ちょっと死体っぽいのが気になりますが)に水が直接あたらないよう気をつけて(直接あたるとその部分だけ塩が抜けてしまい、当然腐りやすくなるので)、流水で塩抜きします。それから数日間風通しがいい場所で乾燥させ、燻製にかけ、そのあとも理想をいえば数日風にあてて乾燥させてください。そのころには赤身部分が暗赤色になっているはずです。そうそう、虫が寄ってくるのでネットのなかに入れたほうが安全です。ネットを手に入れると、中華のおこげや魚の干物も簡単に自作できるので、料理の幅が広がりますよ。ちなみに、時間がなければ前後の乾燥は省いても大丈夫です(ピチットさんでくるんで、冷蔵庫で寝かせてもそう変わりません。夏場はこのほうが安心ですしね)。

 このベーコンを大きくざくざく切って、カルボナーラにするとたまりません。市販のもののように薄切りにするのは難しいので(業務用スライサーを狙っておりますが、どこに置くと家人に却下されました)、半端にかりかりベーコンにしようと苦労するよりも、厚切りベーコンエッグをオススメします。このさい、カロリーとかコレステロールとかは忘れましょう。フライドエッグと呼ばれる意味がわかるように、じゅうじゅうと出る脂を卵にかけるようにして焼いてくださいまし。大きめに切ってスープやシチューに抛りこんでも、それだけでひとつ上のお味になりますよ。これがあるなら、お鍋もいいですね。おじゃが、玉ねぎ、キャベツなどお好みの野菜とざく切りベーコンを鍋に抛りこむだけ。癖のないスープストックを入れてもいいですが、水だけでも最高に美味しいお鍋ができあがります。大人は黒こしょうをたっぷりかけるのがオススメです。締めはご飯、チーズ、トマトを入れたリゾットにすると、またお味が変わって楽しめますよ。できれば自家製ドライトマトも入れたいところです。天候に左右されないので(雨でも降ってきた日には泣いちゃいます)、わたしは低温のオーブンで作っています。以前トマトソースは缶詰のトマトをメインで使っていましたが、そこに生のトマト、自家製ドライトマトも入れると、驚くほどお味に深みがでます(最近では、煮こむとすてきに甘みがでる縦長のトマトも売っているので、これかミニトマトでドライトマトを作っています)これも簡単なので、ぜひお試しを。長持ちはしませんが、半分生のものもいいですね。口に入れると美味しい汁がはじけます! それとモッツァレラチーズとバジルだけでパスタにすると、パスタをゆでる時間でできあがるわりには、とっても美味しいのでオススメです。

 ソーセージは、わたしは買うものだという結論に達しました。詰めるのがとっても大変なわりに、あまり美味しくなかったのです。オススメはスモークチーズ。これはいろいろなチーズで試しましたが、ただのプロセスチーズが手間もかからないうえに美味しいので、これに決めています(ナチュラルチーズも各種試しましたが、温度管理をしっかりしないと溶けてしまいますし、費用対効果が薄いように思います)。赤ワインとセロリを用意すれば、延々と呑めることを保証しましょう。ワイン、チーズを順番に口にふくみ、ゆっくりと味わい、セロリで口をさっぱりさせて、またワインを、以下、省略。

 さて、真打ち登場です。お醤油とオリーブオイルを燻製すれば、味覚の世界は格段に広がりますよ。これを使うだけで、すべて燻製風味になるわけですから。お肉を炒めるのもよし、マヨネーズを自作するのもよし。ステーキだっていきなり炭火焼きに変身です。燻製醤油で卵かけご飯にして、半分食べたところで燻製オリーブオイルをたらりと垂らし、黒こしょうをたっぷりかけますと、なんとなくイタリアンなお味になるのでお試しを。もっと詳しいレシピを知りたい方は、事務局までメールをいただければ、スパイスのグラム数までお教えいたします。

 そうそう、ミントはお酒ばかりではなく、大好きな使用法がありました。茶葉を混ぜずに、ミントの葉だけを使ってミントティーを淹れると、さわやかでとても美味しいです。いまの季節にぴったりですし、冷やして夏の夕方にもいいですね。できればポットやグラスも透明なものを用意して、色も楽しみたいところです。これもどっさり葉を使わないと味も香りも物足りないので、ポットにぎゅうぎゅうに葉っぱを押しこめてください。ちょっと調べてみたらGunpowderという中国のお茶を混ぜると、頭痛などに効くそうなので、それも試してみたいと思います。

 以上、つたない文章をだらだらと書きつらねましたが、最後までおつきあいいただきまして、どうもありがとうございました。いま、翻訳ミステリに登場するお料理を作る会(もちろんそのあとは試食会です!)をとっても頼りになる方々と計画しています。たとえばフィッシュ&チップス、マカロニ&チーズ、なんとかのキャセロール、お弁当の定番ピーナッツバターとバナナのサンドウィッチ、あるいはいろいろなクッキー、桃のコブラー、キーライムパイ、ピーカンパイ、よく目にするものの召しあがったことのないお料理もたくさんあることと思います。そんなお料理をみんなで作ったらさぞかし楽しいだろうと、考えるだけでわくわくしております(ちなみにいまの例はわたしの願望だけなので、これからメニューは検討いたします)。なんとか今年中に実現を目指しますので、どうぞ、お楽しみに!

武藤 崇恵(むとう たかえ)東京都出身&在住。おもな訳書は「ダイエット・クラブ」シリーズ、「パニック・パーティ」バークリーなど。ツイッターアカウント@Takaeeeeeeee。見かけたら、ぜひコメントしてくださいネ。自分の読書体験はかなり偏っていると、いまさらながら驚いております。

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