えー、今月これから4回ほど、ばかばかしいお話をさせていただくことになりました中山宥と申します。ひとつよろしくお願いいたします。

 とは言いましても、わたしが翻訳したミステリーは、ドン・ウィンズロウの“生涯サーファー、ときどき探偵”シリーズ2冊だけと、いやはや寂しい限り。このサイトにいらっしゃるミステリー痛、いえミステリー通の皆さんにお伝えすることは、正直、何ひとつございません。

 それでもどうにか、無い知恵を絞りまして。おっとそうそう、ミステリーじゃあなくデジタル関連の話題なら、多少のお役に立てるかもと、まあ、そのあたりにお付き合いいただこうかと思います。

 なにしろ、わたしの翻訳力はからっきし進化しませんが、デジタルツールというやつは日々進化しますな。だからって動向を逐一追いかけている余裕もありませんので、翻訳や執筆の作業にえらく便利なサービスが登場しても、しばらく気づかず、「ええっ、そんなのあるんなら、早く言ってよ」と、あとで口を尖らせたりする羽目になりかねません。

 一部の人にとって、当たり前田の健太ナイスピッチングなことも、ほかの人にとっちゃあ、そうでもない。これは何についても言える話でしょうな。

 てなわけで、ご紹介する情報のうち1つなり2つなりが、翻訳家やライターの方々の仕事の効率アップに貢献することを祈りつつ……。

1)

 初っぱなから、あまりにメジャーすぎて気が引けるんですが、Dropboxサービスに触れないわけにはまいりません。「とっくに使っとるわい」という方は読み飛ばしていただくとして、「クラウドとかよく聞くけどぉ、自分には関係なさそうだしぃ」的な方、物書きの仕事をするなら、Dropboxはもう使わにゃ損ソン孫正義です。

 基本的な機能をひとことで表わすと、“フォルダの同期”ですな。準備作業は、なぁに、たいしたことありません。Dropboxのサイトで簡単なユーザー登録を済ませて、Windows用やMac用のちょっとしたソフトをダウンロードし、起動しておく。ただそれだけです。

 するとあら不思議、パソコン上にDropboxというフォルダができましてね。で、この中にファイルを保存すると、Dropboxが瞬時にして「あいよっ、おいらの出番だね!」てな感じに気づいてくれて、そのファイルをネット上の個人専用ページにコピーしておいてくれるという仕組みです。

 既存のファイルに修正を加えた場合も同様で、「ややっ、今度はちょっくら修正と来やがったかい」と張り切って自動感知してくれる。文字原稿みたいなサイズの小さなファイルなら、2、3秒以内にはコピー完了。まったく便利な物ですな。すべてDropboxが勝手にやってくれますから、こっちは何も意識しなくていいんです。

 で、ネット上にファイルのコピーなんか作って、何の得があるのかって?

 そうですな、まず第1は、保険みたいなものです。

 急ぎの原稿を仕上げている最中に、突然、パソコンの調子がおかしくなったと想像してみてください。ひと昔前なら、大惨事でしょう。ところが、ふだんDropboxを使っていれば、少しも慌てる必要はありません。壊れたパソコンは放って置いて、近所のネットカフェにでも行き、Dropboxサイトにアクセスすれば、ついさっきのファイルを開いてすぐに作業続行できるわけです。

 そのほか、たとえ空き巣に入られてパソコン一式を盗まれようが、江戸の大火で家が全焼しようが、やりかけのファイルはネット上にもあって無事なんですから、ありがたい。

 第2に——こっちのほうが重宝な機能かもしれませんが——ファイルの古いバージョンに戻ることができます。

「あぁダメだ、書き換える前のほうが良かった」と後悔したり、「ん? いつの間にか1段落消えちゃったんですけど」なんて失敗をしたりした経験はありませんか?

 Dropboxユーザーなら、心配ご無用。サイトの自分のページにアクセスすれば、簡単に復活できます。誤って削除したファイルを復活させたい場合は、右上のごみ箱アイコンをクリックし、甦らせたいファイルを指定するだけ。

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 また、上書きしたファイルを古いバージョンに戻したい場合は、ファイル名の上で右クリックして、“古いバージョン(Previous versions)”を選びます。

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 するとびっくりしますな、Dropboxとやらは、よほど健気な性格なんでしょう。こっちが上書きするたびに、古いファイルも捨てずにこっそり保管してくれてある。2000回、3000回と上書きしても、全部ですよ。おかげで、何時間前にでも何日前にでもタイムワープして、その時点のファイルを復元できるってわけです。

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 でもって第3としまして、Dropboxは大容量ファイルの送信にも活躍します。「PDFファイルを送りたいけど、メールに添付するにはサイズが大きすぎる」なぁんて困ったことはありませんか? そんなときためのファイル転送サービスもいろいろ存在しますが、Dropboxがいちばん手軽で安定しているように思いますな。

 送りたいファイルをDropboxフォルダに入れておいて、右クリックし、“リンクを共有”を選んで、送信先の相手にそのリンクを教えるだけでOK。向こうはそのリンクをクリックすればダウンロードできます。

 最後に第4の特長。わたしのように細々と翻訳をしつつバイトに励んでいる下っ端などは、自宅のパソコンでやりかけた仕事の続きを、移動先のほかのパソコンやタブレットでやりたい場面があると思います。タブレットには、Dropbox本家のアプリのほか、Dropboxとの同期機能を備えたアプリがたくさんありましてね。

 わたしは、外出する際にiPadのワープロ・アプリと同期しておいて、電車の中で続きをやって……なんて具合にしております。帰宅して同期すれば、またパソコンでその続きができるわけで、スムーズこのうえないですな。

 いやぁ、しかしこう多機能なると、気になるのはお値段ですよね、お客さん。……それが、Dropboxは無料なんです。あゝ無料。アイデアル、タダデアル。お金を払えば使用容量を増やせますが、おもに文字データを扱う範囲なら、それには及ばないでしょう。

 ついでながら、Dropboxはすでに経営が軌道に乗っているので、簡単に潰れることは考えられませんが、万が一サービス停止なぁんて事態になっても、ちっとも不安はありません。ここがまたいいところでしてね。ネット上にあるのはあくまでコピーで、皆さん自身のお手元にも、常に最新ファイルがちゃんと残っているわけです。

 以前、カナダ人の知り合いにこのDropboxを教えてあげたら、しばらくあとで“Oh, you’ve changed my life!”と大感激して握手を求めてきましたが、さて、皆さんはいかに。

 興味の湧いた方は、公式の内容紹介ページなどもご覧ください。

2)

 まあそのぅ、超ビッグなDropboxに比べると、話が一気にしょぼくささやかになりますがね。わたしがいたく気に入って毎日使っているサービスがあります。

 なんでもお偉いさんの研究によると、人間はまったくの無音よりも、適度な雑音があったほうが作業効率が上がるそうですな。たしかに、図書館やファミレスで仕事をする人も多いようで。わたしもその口です。

 しかし、とくに深夜なんかで店が閉まってたりすると、ちょいとばかり難儀する。あたりは「しぃーん」と、いやに静か。でもラジオを付けちゃあ、気が散るし……。

 そこで効果抜群なのが、coffitivityというサイトです。ここにアクセスすると、カフェの何気ない雑音を延々と流し続けてくれるんですな。類似サイトはほかにもありますが、ここの雑音はじつに心地いい。

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 人によっては、雨の音を聞くと落ち着くなどという方もいらっしゃるそうで、カフェ以外の環境音がお好みならこのサイトあたりにリンク集があります。

 いややっぱりBGMにはもっと普通の音楽がいいね、と思う方は、YouTubeで“作業用BGM”と検索してみる手もあります。いやというほどヒットする中から、きっとお好きなものが見つかるでしょう。

 さて次回は、Googleの少し意外な活用法と、あとで読むサービスなんてものをご紹介しようかと思います。では。

中山 宥(なかやま ゆう)。1964年、東京生まれ。訳書は、ドン・ウィンズロウ「夜明けのパトロール」「紳士の黙約」、マイケル・ルイス「マネー・ボール[完全版]」など。

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